太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり
5冊目について聞く前に、太田光の「未発表作」にがぜん興味がわいた。宇宙が狭くなる......? そのストーリーはこうだ。
「まずは地球防衛軍の会議のシーンから始まる。『木星と金星の間の距離が近づいてきているぞ、これは一体何なんだ?』と。よくよく調べてみると、他の星々もどんどん互いの間隔が狭くなっている。これはきっと宇宙が全体的に縮小しているってことだ、じゃあ宇宙の外側に一体何があるんだと。宇宙の外にまた別の宇宙が広がっていて、そこに人がいる。そいつらが攻めてくるという話。最後のオチは......」
ノート1冊分、夢中になって書いて、大長編が完成したという(今も探せばどこかにあるというので、いつか発表されることを願って、オチのネタバレはここでは控える)。
自らも創作するようになった太田が「人生を変えた本」の5冊目として挙げたのは、現代アメリカ文学を代表する作家カート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』だった。現在の事務所の名前「タイタン」の由来となった小説だ。
『タイタンの妖女』
カート・ヴォネガット[著]
邦訳/早川書房
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大学に入ると、高校時代に比べれば解放されてはいたが、それでもまだ「悶々」は続いていた。演劇学科に入った当時は「小劇場ブーム」が起きていて、自分もなんとか世に出たいともがいていた。『タイタンの妖女』は、そんなときに読んだ1冊だった。
「読んだのはおそらく1年か2年のときだけど、すごく衝撃的で。あの頃、ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』という小説がちょっと流行ってたんですよ。ロビン・ウィリアムズ主演で映画にもなって。『ガープの世界』が面白くて、それをまず読んで、アーヴィングが好きな作家として挙げていたのがカート・ヴォネガットだった。
ヴォネガットを読み始めて何作目かで『タイタンの妖女』に出会って、まぁ、こんなに面白い小説があるのかって思った。まず、読んでて笑っちゃう。アーヴィングもそうなんだけど、声を出して笑っちゃうんだよね。小説を読んでいてそこまで笑うことってなかったから、すごいなって思うのと、『タイタンの妖女』は本当にスケールの大きい話で、主人公が時空や空間をどんどん飛び越えていく。なぜそんな運命なのかというと、(土星の衛星)タイタンに宇宙船で不時着した異星人がいて、そいつに<これから助けに行くから心配するな>という仲間がいるから。最終的にタイタンから地球を見ると、万里の長城なんかが<これから行くよ>というメッセージになっている。つまり、人類の歴史は全て、実はそのたったひとつのメッセージを伝えるために行われてきたことだった、という話。
壮大な話なのに、オチがくっだらないんですよ(笑)。われわれが生きて悩んでっていうのが、彼らの単なるメッセージのために使われていたのかと。これは、びっくりしましたね。価値観が変わった。生きているということは結局その程度のことなんだって。若い頃ってやたらと自分の人生に意味を持たせようとするじゃないですか。でも本当は、大したことじゃないんだと感じた。それでも生きていていんだよって言われたようで。