最新記事

人生を変えた55冊

太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり

2020年8月5日(水)16時30分
小暮聡子(本誌記者)

5冊目について聞く前に、太田光の「未発表作」にがぜん興味がわいた。宇宙が狭くなる......? そのストーリーはこうだ。

「まずは地球防衛軍の会議のシーンから始まる。『木星と金星の間の距離が近づいてきているぞ、これは一体何なんだ?』と。よくよく調べてみると、他の星々もどんどん互いの間隔が狭くなっている。これはきっと宇宙が全体的に縮小しているってことだ、じゃあ宇宙の外側に一体何があるんだと。宇宙の外にまた別の宇宙が広がっていて、そこに人がいる。そいつらが攻めてくるという話。最後のオチは......」

ノート1冊分、夢中になって書いて、大長編が完成したという(今も探せばどこかにあるというので、いつか発表されることを願って、オチのネタバレはここでは控える)。

自らも創作するようになった太田が「人生を変えた本」の5冊目として挙げたのは、現代アメリカ文学を代表する作家カート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』だった。現在の事務所の名前「タイタン」の由来となった小説だ。


『タイタンの妖女』
 カート・ヴォネガット[著]
 邦訳/早川書房

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

大学に入ると、高校時代に比べれば解放されてはいたが、それでもまだ「悶々」は続いていた。演劇学科に入った当時は「小劇場ブーム」が起きていて、自分もなんとか世に出たいともがいていた。『タイタンの妖女』は、そんなときに読んだ1冊だった。

「読んだのはおそらく1年か2年のときだけど、すごく衝撃的で。あの頃、ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』という小説がちょっと流行ってたんですよ。ロビン・ウィリアムズ主演で映画にもなって。『ガープの世界』が面白くて、それをまず読んで、アーヴィングが好きな作家として挙げていたのがカート・ヴォネガットだった。

ヴォネガットを読み始めて何作目かで『タイタンの妖女』に出会って、まぁ、こんなに面白い小説があるのかって思った。まず、読んでて笑っちゃう。アーヴィングもそうなんだけど、声を出して笑っちゃうんだよね。小説を読んでいてそこまで笑うことってなかったから、すごいなって思うのと、『タイタンの妖女』は本当にスケールの大きい話で、主人公が時空や空間をどんどん飛び越えていく。なぜそんな運命なのかというと、(土星の衛星)タイタンに宇宙船で不時着した異星人がいて、そいつに<これから助けに行くから心配するな>という仲間がいるから。最終的にタイタンから地球を見ると、万里の長城なんかが<これから行くよ>というメッセージになっている。つまり、人類の歴史は全て、実はそのたったひとつのメッセージを伝えるために行われてきたことだった、という話。

壮大な話なのに、オチがくっだらないんですよ(笑)。われわれが生きて悩んでっていうのが、彼らの単なるメッセージのために使われていたのかと。これは、びっくりしましたね。価値観が変わった。生きているということは結局その程度のことなんだって。若い頃ってやたらと自分の人生に意味を持たせようとするじゃないですか。でも本当は、大したことじゃないんだと感じた。それでも生きていていんだよって言われたようで。

【関連記事】東野圭吾や村上春樹だけじゃない、中国人が好きな日本の本

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロープウエーのゴンドラ落下、4人死亡 ナポリ近郊

ビジネス

中国、サービス業さらに対外開放へ AI産業応用を推

ワールド

ウクライナ和平交渉、一定の進展も米とのやり取りは複

ワールド

米は台湾自衛を支援、訪台の上院議員が頼総統に表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中