最新記事

人生を変えた55冊

壇蜜 寄稿:因果応報と百合萌えと壇蜜としての天命【人生を変えた5冊】

2020年8月15日(土)11時45分
壇蜜(タレント)

時事通信社

<壇蜜さん、あなたの5冊を教えてください――。すると彼女は、さくらももこ『もものかんづめ』に今野緒雪『マリア様がみてる』、浅田次郎『蒼穹の昴』と、本に彩られた半生を綴ってくれた。本誌「人生を変えた55冊」特集より>

とても人様に自慢できるような半生を送ってはいないが、さまざまな本に「これまで」をつくってもらった自覚はしている。今からご紹介する本がなければ、今頃どうなっていたか分からない......と言っても過言ではない。
2020081118issue_cover200.jpg
幼い頃から大人ばかりの環境で過保護気味に育てられ、共働きの両親に代わり祖父母が私のしつけをしてくれた。なかでも祖母チョイスの絵本、『なしうりと せんにん』は当時から私に因果応報の仕組みをシビアに刷り込んでいたと思う。中国の昔話で、梨を売り歩く男が老人(実は妖術を使う仙人)を邪険に扱ったせいで商品の梨を妖術で没収されてしまうストーリーに震えた。読み終わってから祖母が「人には親切にしなさい」と締めくくるのも、なかなかの圧があった。


『なしうりと せんにん』
 小沢正[著](中国の昔話)
 チャイルド本社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

こうして人には親切にしようと心掛けるようになるが、一人っ子ゆえの頼りなさにおせっかいのような親切心がアンバランスに配合されてしまう。親切とおせっかいの区別が付かぬままクラスメイトに接したので、小学校時代はとにかく「うざい」と言われてつまはじきにされる。

強制的に一人になった私の側には『もものかんづめ』があった。父がエッセー好きで薦めてくれたのだった。漫画家さくらももこ氏の幼少期や青年期に体験した理不尽な出来事や思い出深い体験を悲喜こもごもにつづったそれを読み、世の中は親切だけでは生きていけない現実を知る。


『もものかんづめ』
 さくらももこ[著]
 集英社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

嫌われ者として孤独なローティーンを過ごした私も中高生になると周囲に気の合う仲間もできて、学校生活の張り合いが出てくる。しかし舞台は女子校、おまけに思春期真っ盛りなので何かと耽美な世界にのめり込む。おとぎ話のような、でも実際にあってもおかしくないような世界観を求めて本を探し、『ウォーレスの人魚』(岩井俊二)と出会う。


『ウォーレスの人魚』
 岩井俊二[著]
 KADOKAWA

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

海の中で進化を遂げた人間......人魚が存在し、人魚の血を引く人間がいるかもしれないというストーリーはロマンチックで少し臨場感があった。退屈な箱庭のような学園生活から逃避するための手段として、私は人魚のことをよく考えるようになった。今でもいると信じている節はある。

そんな箱庭の子羊も大学を経て社会に出ていく準備をしなくてはいけない時間が来た。そろそろ現実と向き合わなくてはいけないが、どうにもこうにも逃避の癖が抜けない。

【関連記事】太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中