福島第一原発事故は、まだ終わっていない
関東の仕事に戻っていた東京のヒロさんが、2年ぶりに福島に戻ったと聞いて連絡を取る。緊急時対策本部があった免震重要棟の壁を飾っていた、全国から寄せられた応援の手紙やメッセージ、千羽鶴が外され、殺風景になっていたという。「手紙やポスターをはがしたテープの跡が壁に残っていて。8年経って劣化したのか、もう通常だということなのか。1階の大部屋に中学2年の生徒たちのメッセージがあったのを覚えている。すでに成人しているんだよな。元気かな。もう子どもがいたりするのかな」と応援メッセージを書いてくれた子どもたちに想いを馳せた。(415ページより)
印象的だったのは、どれだけ厳しい作業が続く状況にあっても、作業員たちは明るかったという著者の言葉だ。そのバックグラウンドにあるのは、やはり住めなくなった故郷や家族への思いであるようだ。
しかし過酷な状況をリアルに感じる機会を持たない私たちは、ときにそうした現実がまだあることを忘れてしまいがちでもある。だからこそ本書に目を通し、「やらなくてはならないことがたくさんある」現場を思い浮かべてみることも必要なのではないだろうか。
福島第一原発事故は、まだ終わっていないのだから。
『ふくしま原発作業員日誌
――イチエフの真実、9年間の記録』
片山夏子 著
朝日新聞出版
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル