最新記事

基礎知識

松之丞改め六代目神田伯山の活躍まで、講談は低迷していた

2020年2月19日(水)14時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

イラスト・細川貂々(『Pen BOOKS 1冊まるごと、松之丞改め六代目神田伯山』より)

<人気・実力を兼ね備えた神田松之丞が六代目神田伯山を襲名し、活気づく講談界。しかし、そもそも講談とは何か、きちんと知っているだろうか。その歴史から、講談と落語との違いまでを解説>

神田松之丞から、六代目神田伯山へ――。2020年2月11日、人気・実力を兼ね備え、講談界を飛び出してテレビやラジオでも活躍してきた神田松之丞が真打に昇進した。

2月16日には真打昇進までの半年間に密着した『情熱大陸』(MBS/TBS系)も放送され、話題になった。押しも押されもせぬ講談界のスターである。
penbooks20200212kanda-booktop.jpg
このたび、これまでの神田松之丞と、これからの六代目神田伯山のすべてがわかる1冊として『Pen BOOKS 1冊まるごと、松之丞改め六代目神田伯山』(ペンブックス編集部・編、CCCメディアハウス)が刊行された。

ここでは同書から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。第2回は基礎知識を扱ったページ「そもそも講談って、いったいどういうもの?」から一部を掲載。落語に比べ低迷が続いていた講談だが、そもそも講談とは何か、知っていますか?

●抜粋第1回:六代目神田伯山が松之丞時代に語る 「二ツ目でメディアに出たのは意外と悪くなかった」
●抜粋第3回:爆笑問題・太田光が語る六代目神田伯山「いずれ人間国宝に」「若い子も感動していた」

◇ ◇ ◇

文・長井好弘

そもそも講談とは――。講談という芸を語ろうとするとき、どうしても堅苦しくて、偉そうな表現を使ってしまうのは、講談そのもののルーツにかかわりがあるからだろう。 

昔々、戦国時代も終わりの頃、武士が主君の御前で、『将門記』や『平家物語』などの軍書を朗読し、解説する「講義」が広く行われた。徳川家康に『太平記』を講義した赤松法印は、その評判が広まって諸侯にも呼ばれ「太平記読み」と称せられた。

江戸時代に入ると、このスタイルが「講釈」と呼ばれ、浪人の大道芸と変じ、のちには庶民向けの演芸となった。「講談」という呼び名は明治に入ってからのものである。扱う題材は、中世以降の軍記文学を手始めに、説話集、中国古典、伝奇物語、大名家のお家騒動、江戸末期には世話物も加わった。

時代とともに読み物は変わっても、軍記物以来の特徴である、男性的発声、弾む調子、歯切れの良さ、難しい熟語の多い表現と、それらがもたらす緊張感や語感の美しさは、今も昔も変わらぬ講談の魅力である。

「今、落語家は900人以上、講談師はその一割の90人しかいないが、江戸の昔は講談師が800人いたといいます」と松之丞改め六代目神田伯山が高座で胸を張る。明治17年の『東京案内』には寄席が87軒あり、その大半が講談席だった。だが、講談の人気も日清・日露戦争期をピークに衰退の一途をたどる。

活動写真など新しい大衆娯楽の台頭に押され、明治末期には「こういう古い、工夫のない芸は衰えるのが当たり前」と娯楽雑誌に書かれている。そして大正12年の関東大震災で講談席が激減。以来、80年以上にわたって講談の低迷が続いたのだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中