『ジェミニマン』の老若ウィル・スミス対決は超高画質でも空回り
No Number of Will Smiths Can Save It
フルCGで制作された23歳のスミス(手前)と現在のスミス(右奥)が対決するが ©2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
<今よりはるかに若い自分と戦うという設定は斬新だが、4K・3D撮影でかえってインチキっぽく見えてしまう>
もし若い頃の自分に会えたら、どんな忠告をするだろう? 逆に年を取った自分が目の前に現れたら、彼の忠告に耳を傾けるだろうか? 映画『ジェミニマン』が私たちに投げ掛ける問いは、まさにそれだ。
この手のストーリーは、タイムトラベルものになりがちだ。しかし、アン・リー監督の手に掛かるとひと味違ってくる。
登場するのは、未来の自分や過去の自分ではない。後悔や疑念だらけの中年男と、彼の若いクローンだ。中年男のほうは、伝説の暗殺者ヘンリー・ブローガン。若いクローンは、ヘンリーを殺すため秘密裏に育てられた23歳の「ジュニア」。どちらもウィル・スミスが演じている。
リーは主人公のヘンリーの配役の際に、いま50代の俳優で、若い頃にアクションスターの経験あり、という条件を付けた。それを満たすのは2人しかいなかった。スミスとトム・クルーズだ(リーによれば「トムは忙しかった」らしい)。
撮影には、スミスの若い頃の顔を再現するデジタルアニメーション技術のほかに、毎秒120フレームの高フレームレート(HFR)撮影や、最新の4K解像度の3D撮影技術も使われた。
アメリカ国内にはこの「120フレーム・4K・3D」を再現できる映画館がなく、筆者が見たときも最高の条件で上映されてはいなかった。しかし映像はこの上なく鮮明で、リーのこだわりは十分に伝わってきた。
この撮影技法を導入したのは失敗だったと判断するにも十分だった。鮮明に撮影されたウィル・スミスは、何をどう演じてもウィル・スミス自身にしか見えない。映画を見ているというよりは、メイキング映像を見ているようなのだ。
未来の監督が忠告すべき
物語は国防情報局の潜入捜査官や、軍の請負業者から悪の道に進んだクレー・ベリス(クライブ・オーウェン)らを巻き込んで進んでいく。しかし画質がいいものだから、ストーリーの展開よりも、つい俳優の顔のしわやソーダ缶の水滴に関心が向いてしまう。
例えば環境問題を扱ったドキュメンタリー映画のように彼らを取り巻くものが本当のテーマだったら、鮮明な映像は大正解だろう。しかしあくまで物語重視の本作では、意味ありげな言葉を交わす俳優たちが大写しになればなるほど、インチキっぽく見えてしまう。55歳のオーウェンが23歳のスミスと戦うシーンも通常の毎秒24フレームなら受け入れられるが、120フレームだとどこかばかげて見える。