最新記事

健康

「人生100年なのに医療は人生70年設定のまま」が引き起こす問題

2019年9月2日(月)18時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

最大の問題は、いまの医療システムが「人生70年時代」から更新されていないことです。

本来なら、医療は人生100年に合わせ、急性疾患の予防だけでなく老化を遅らせる方策、認知症や寝たきりにならないための方策を患者さんに提供するよう進化していなければならないはずです。

ところが現代医療はまだ、圧倒的に急性疾患への対応に重きをおいています。病院の診療科が臓器別・器官別になっていることからもそれはわかります。腎炎なら腎臓専門医、肝硬変なら肝臓専門医が対応します。しかし、個別の病気を診ることのできる医師はいても、全身の老化に対応できる医師はほとんどいません。

そのため、65歳までは糖尿病内科や循環器内科の医師に過食を制限されていたのに、70歳を超えたとたんに老年科の医師から寝たきり予防のためにはたくさん食べてください、といわれる。そんなおかしな事態が起こってしまうのです。

たしかに、人生100年時代は認知症や寝たきりの予防に力を入れなければならない時代です。ただそれは、「健康」と「病気」がくっきりと分かれていた人生70年時代とはちがいます。医療の現場はもっと別のアプローチをとるべきなのです。

人生100年時代は急性疾患が減ったかわりに、健康と病気のあいだを「老化」というキーワードがつなぐ時代です。どこからが病気でどこからが健康かの明確な境界線がない時代なのです。そのような時代にあっては臓器別や器官別の疾患だけでなく、全身の老化によって起こる症状について的確な診療や生活習慣改善のアドバイスができる医師の存在が不可欠です。

それなのに、いまだに私たち医師は高血圧症のような生活習慣病も「病気扱い」をして、急性疾患と同じように薬による診療をおこなっています。

ただ、私にいわせれば生活習慣病は「病気」ではありません。「老化」です。老化に薬で対応しようとしても無理なのです。

生活習慣病は病気ではなく「老化」

もう一度、はっきりいっておきましょう。

体に負担をかける生活習慣によって引き起こされた高血圧症、糖尿病、高脂血症は、病気ではなく「老化」です。生活習慣や加齢からくる筋力低下、認知機能低下も「老化」です。

ときには血圧を上昇させるような病気が別にあり、それが原因で高血圧を引き起こしている場合もあります。しかし、そうでない生活習慣由来の高血圧症は、「病気」ではなく「老化」だと私は考えています。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中