和歌山毒物カレー事件、林眞須美死刑囚の長男が綴る「冤罪」の可能性とその後の人生
Newsweek Japan
<21年前に日本中を騒がせ、4人が死亡した毒物混入事件は、冤罪だったという説がある。ツイッターを始め、『もう逃げない。』という著書を出版した長男は何を語るのか>
『もう逃げない。~いままで黙っていた「家族」のこと~』(林眞須美死刑囚長男・著、ビジネス社)の著者は、今から21年前の1998年7月に発生した「和歌山毒物混入カレー事件」の犯人として逮捕された、林眞須美死刑囚の長男。
事件当時は小学5年生だったが、同年10月4日の早朝に両親が逮捕されてからは、高校3年生まで和歌山市内の養護施設で暮らし、現在は会社員として働いている。
67人が中毒症状を起こし、4人が死亡した和歌山毒物混入カレー事件については、林眞須美が無罪を訴えつつも、2009年に最高裁判所で死刑が確定しているが、実は冤罪だったのではないかという説がある。林夫婦が事件以前に大掛かりな保険金詐欺を働いて巨額の富を得ていたことは事実で、それは長男である著者も認めている。しかし、カレー事件については、関与していない可能性が高いのだという。
その根拠の全てをここに書くわけにはいかないが、当時はまだ子供だった著者もここで「自分の目で見たこと、聞いたこと」を具体的に明かしており、それらは全て辻褄が合う。
事件翌日、ニュースを見ながら父が、
「これは、あれやな。あの犬を殺ったヤツが犯人やな」
と言っていたのを覚えている。
父は、近所の人たちから胡散臭がられていた一方で、何人か親しい人もいた。昔からの地主だという近所のSさんという高齢の女性とは、母も交えて一緒にカラオケに行ったりしている仲だ。
ぼくら家族が引っ越してきてしばらくしてから、そのSさんがうちに来て父と世間話をしているとき、こんなことを言っていた。
「林さん、あんたえらいところに引っ越してきたな。ここらは物騒なことが多いんやで。あんたら越してくる前に、この辺の飼い犬が何十匹も毒殺されてるんよ。あんたの家の裏の畑に毒がまかれて、1年間使われんこともあったんよ」
父は、Sさんから聞いた、この犬の毒殺事件とカレー事件を結びつけたのだ。もちろんこの時点では、父にとってカレー事件は他人事にすぎなかった。(32〜33ページより)
例えばこんなところからも、ある種のリアリティーを感じることができるかもしれない。カレーには青酸化合物だけではなくヒ素も混入されていたと聞き、父親の健治は背筋をゾッとさせたという。しかしそれは、ヒ素を摂取して体調不良を起こすことで、保険金をだまし取っていた過去があるからだった。
なお両親は保険金詐欺関連の容疑で逮捕されたあと、和歌山市内の別々の警察署で取り調べを受けることになる。カレー事件では直接証拠がなかったため、警察も検察も、眞須美に自白させる必要があった。だが彼女は自白をせず、取り調べ中に自分を殴った刑事を殴り返し、刑事たちから恨みを買ったそうだ。