経済失速の韓国で大ヒット『パラサイト』 カンヌは「万引き」の次に「寄生」する格差社会作を選んだ
ブラックな笑いの影に色濃いメッセージ性
ボロボロのアパートの半地下に住む一家の父親は、台湾系のカステラのチェーン店のフランチャイズ事業に失敗。現在は妻と子供2人含め家族全員が職に就いておらず、一家全員で宅配ピザの配達用の箱を組み立てる内職で生計を立てている。IT大国をうたっている韓国で、自宅にWi-Fiすら引けず、近くの家やカフェからかすかに漏れてくるWi-Fiをタダ乗りで使っているような状態だ。
ちなみに、父が最後に失敗したカステラのチェーン店は「デワン・カステラ(大王カステラ)」という2年前まで韓国で大人気だった実在のフランチャイズ店である。韓国に行ったのことある人はご存じかもしれないが、韓国人は本当によく仕事を変える。また飲食店の入れ替わりも激しく、一度流行るとすぐフランチャイズ展開し、どの駅前にも同じお店が建つようになった頃には流行が終わって客足も途絶えて潰れ、また別の新しい流行りのフランチャイズ店がオープンする......。まさにこの一家はその流れに飲み込まれ、貧困にあえぎながら暮らしている典型的な貧乏一家といえる。地下だがかろうじて窓がある半地下と呼ばれる家に暮らしていた一家だったが、ある日ひょんなことから、息子がお金持ちの家で英語の家庭教師をすることになり、家族の生活は徐々に変化していく......。
ところどころ笑いの要素がちりばめられているが、決してただの笑いではなくメッセージ性が色濃く表れている作品といえる。注目したいのは、去年のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作品『万引き家族』とともに、この『パラサイト』も格差が拡がる社会という、今世界各国で抱える問題を浮き彫りにしている点だろう。
映画という媒体は、今現実に起こっている問題やそれに対するメッセージをストーリーに乗せて観客に届けることができる。カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した『パラサイト』『万引き家族』両作品ともに格差社会問題を取り上げた映画だが、2本ともそこで生きる主人公たちが、問題に対してときにひょうひょうと乗り越えていこうとするたくましい姿が印象的だ。