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経済失速の韓国で大ヒット『パラサイト』 カンヌは「万引き」の次に「寄生」する格差社会作を選んだ

2019年6月13日(木)19時30分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

文在寅政権の経済政策の失敗と重なって......

『パラサイト』が大ヒットする韓国でも格差の問題は大きな社会問題になっている。今年の2月、韓国の経済学者ら約1400人が参加した経済学共同学術大会では、文在寅政権の「所得主導成長政策」を実証的に分析した「新政府のマクロ経済成果の実証評価」という研究発表が行われ、現政権の経済政策を「事実上の失敗だ」と断じた。実際、世界的な半導体需要の落ち込みから、韓国経済の稼ぎ頭であるサムスン電子は2019年1〜3月決算で前年同期比60%のマイナスとなり、同時期の韓国GDPは-0.3%と過去10年間で最大のマイナス成長となった。就職率も下がる一方で、貧富の格差はますます開いていくとみられている。『パラサイト』が描いたブラックコメディの世界で生き抜く多くの韓国国民たちは、厳しい世界でハッピーエンディングを目指して身を寄せ合い生きていくしかない。

だが、これは韓国に限ったことではない。カンヌ映画祭の開催地フランスでは、2018年11月から政府の税制改革に「経済格差が広がる」などと反対する労働者たちが黄色いベストを着用して毎週末デモを行っている。フランスでも6月5日から上映が始まった『パラサイト』は、『X-MEN:ダークフェニックス』に次ぐ26万人動員の興行成績を収め、上映スクリーン数拡大が決定したという。

日本でも『パラサイト』は来年1月に劇場公開されることが決まった。万引きをして生活する家族を描いた『万引き家族』が観客動員300万人突破という大ヒットとなった日本でも、この韓国映画はリアルな共感をもって受け入れられるのではないだろうか。

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