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3歳の子を虐待死させた親の公判を、傍聴席から、そのまま提示する

2018年5月25日(金)16時10分
印南敦史(作家、書評家)


「絶対君主」。自らそう名乗る祖母と、付き従う母。二人の10年以上続く壮絶な虐待に、女子高生は殺害を決意した。計画を打ち明けられた姉がとった行動は――。

 2016年2月23日、札幌地裁806号法廷。
「二人を殺害してほしくないと思っていました。でも、彼女の願いを叶えることが自分のできることだと思いました」。黒のスーツに身を包み法廷に現れた長女(24)は証言台に立ち、裁判員の前で弁護人の被告人質問に答えた。母と祖母を殺した三女(18)を、睡眠導入剤や手袋を用意して手助けしたという殺人幇助(ほうじょ)の罪で起訴された。(8ページ「絶対君主が支配する虐待の家」より)


「ごめんと謝りながら切りつけた」
 多摩川の河川敷で2015年2月、中学1年生だった男子生徒(当時13)が遊び仲間に殺害された事件で、罪に問われた少年の一人は法廷でこう述べた。男子生徒と親しく付き合っていた少年が凄惨(せいさん)な犯行に加わるまで――。

 横浜地裁101号法廷。公判初日の16年3月2日、被告(18)はきゃしゃな背を傍聴席に向け、法廷に立った。「間違いありません」
 15年2月20日、川崎市の多摩川河川敷で、仲間と一緒に男子生徒にカッターナイフで切りつけ、死なせた傷害致死の罪に問われた。起訴された少年は3人。主導的な役割を果たした無職少年(19)は、殺人罪で懲役9年以上13年以下の不定期刑がすでに確定。共犯として起訴された元塗装工の少年(19)の裁判はまだ始まっていない。(48ページ「『ごめん』と言いながら切りつけた」より)

自分も人の親であるだけに、特に身につまされるのは子供がつらい思いをさせられた事件だ。記者に子供があるかどうかは分からないが、こういう話を聞くのは堪え難かったのではないかと思う。


 3歳の女児は真冬の1月、浴室に全裸で冷水をかけられて放置され、息絶えた。体重は10キロに満たず、顔にはやけどを負っていた。虐待をしていたとして保護責任者遺棄致死罪などに問われ、法廷に立ったのは、母親の女(24)と交際相手の男(26)だった――。

 2017年5〜6月、さいたま地裁で二人の裁判員裁判があった。いずれも15年9月ごろから、埼玉県狭山市の自宅で女児に虐待を繰り返し、異常な症状があった女児に医師の診察を受けさせず、16年1月8日夜に冷水をかけて浴室で放置。翌日、敗血症で死なせた、などとして起訴された。(254ページ「LINEに残った虐待の記録」より)

この裁判は母親の女と交際相手の男、それぞれ別々に行われ、その場においての両者の証言が明らかにされているが、その罪のなすり合いは醜悪のひとこと。こんな話を傍聴席で聞かされたとしたら、私には自我を保つことができないのではないかと感じた。

そして、同じく、いつまでも心の中から消えなかった事件がある。以前ここで紹介したことのある、『「鬼畜」の家――わが子を殺す親たち』(石井光太著、新潮社)に登場する事件の裁判がそれだ。

【参考記事】子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち

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