最新記事

インタビュー

地方都市のスナックから「日本文明論」が生まれる理由

2017年8月7日(月)18時56分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

websnack170807-sub.jpg

谷口功一・首都大学東京教授 Newsweek Japan

社交場、共同体としてのスナック

夜の店といえば、他にもバーがありますが、これもスナックとは別のものと考えられます。カウンターで誰とも話さずに1人で飲めるのがバーです。それに対して、スナックは話し相手を求めに行くことが前提ですから、1人で飲むだけで誰とも話さないのは、やや「スナックの作法」に反するかもしれません(笑)。

日本でスナックの数が一番多いのは福岡市博多区、次が札幌市中央区で、このように中洲やすすきのといった歓楽街を有する場所が挙げられます。しかし、人口1人当たりでスナックの数を割り出すと、高知県、沖縄県、熊本県、宮崎県、秋田県、青森県、北海道などにある比較的人口規模の小さい町村が上位20位以内に入ります。

ですから、実に多くのスナックが地方都市にあり、人口3000人規模の町であれば、必ず1軒は存在するのです。都会と異なり娯楽が少ないので、たわいのない会話を求めて人々が集まる社交場です。そこにはPTA、青年会議所、農協、消防団の人など、さまざまな人が集い、地元の情報交換をしたり、家族や地域などに関する世間話をします。

また、キャバクラやクラブではほとんどが男性客であるのに対し、スナックでは女性が1人で来ることも珍しくありませんし、夫婦でスナックに来ることもよく見受けられます。

最近では、客のいない午前中や昼間に高齢者がスナックでカラオケをするという取り組みもあります。

公民館、図書館、デイケアセンターなどの公的サービスを行うための公共施設を新たに建設するのは、人口規模の小さな自治体にとっては多大な負担です。ですから、スナックのようにすでにある施設を団らんなどの場として利用していくのは、地方の急速な高齢化や医療費増大への対策として考えられるのではないでしょうか。公共性という視点からスナックを再考する価値はあると思います。

スナック研究の奥深さ

お酒が出る場所で女性がいる夜の街というと、普通は世界中のどこでもセックス(性)が介在します。しかし、日本の夜の文化ではセックスは直接的なものではありません。また、お酒を飲んで世間話や政治談義をしながらも、べろんべろんになって乱れることはよしとされず、節度をもって飲むこと、つまりコミュニケーションが取れるくらいにはしらふを保つことが日本の夜の文化では求められます。

本書の高山大毅の論文に詳しいのですが、これは本居宣長の「物のあはれ」にひとつのルーツがあるようです。宣長はご存じのように「国学」の人ですから、四角四面なイメージがありますが、実際は『源氏物語』を読んで素直に感動するような「まごころ」を持つことを重視した人です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中