地方都市のスナックから「日本文明論」が生まれる理由
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<首都大学東京の谷口功一教授が中心となり、学者たちが大真面目にスナックを研究して生まれた『スナック研究序説』。なぜ夜の街、酒場を研究するのか?>
日本における移民・難民を法哲学の視点から研究し、「日本人」の再定義を説く首都大学東京の谷口功一教授。このたび『スナック研究序説――日本の夜の公共圏』(白水社)を編者としてまとめた。なぜ法哲学者が夜の街、酒場を研究するのか? その意味について、谷口教授に聞いた。
スナックと法哲学の関係
私が専門にしている法哲学は、「法とは何か?」という基礎的かつ根本的な問題を考える領域と、もうひとつ、「正義とは何か?」を現実との関係の中で考える領域の2つから成り立っています。
私は長年、この後者の中に含まれる問題のひとつとして「公共性とは何か?」ということについて研究してきました。『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)で日本でも有名になった、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の研究分野と親戚にあたるといえば、わかりやすいかもしれません。
この「公共性」の研究に関連して、ニュータウン(郊外)をテーマにしているため、「郊外の多文化主義」(編集部注:論壇誌『アステイオン83』所収の論考、当サイトにも転載)で言及した群馬県大泉町のような地方都市にはよく調査に行きます。
日本は移民を受け入れるべきか否かという議論が高まっています。しかし、地方都市にいれば誰でも知っていることですが、工場で働く人や農業に従事する人など外国人労働者の多くがすでに日本に定住しています。
彼らについてリサーチするに際しては、市役所や地域の多文化共生センターのような施設へももちろん聞き取りに行きますが、そこで得られるのは「オフィシャル」な情報のみです。
これは新聞記者や雑誌記者がよく使う手ですが、彼らを取り巻く生活状況をより詳しく知るには、地元のスナックに行って常連に話を聞くのが一番です。そもそもスナックは地域住民が話し相手を求めにくる場所なので、外から来た「一見さん」であってもある程度その町について勉強していることを示せば、快く話を聞かせてくれる人が集っているからです。
ですから、もちろんスナックで飲むというのも大好きですが(笑)、調査をしに行く場所でもあるのです。
そもそも「スナック」とは何か
語源は「スナック・バー(snack bar)」ですが、サンドウィッチやフライドポテト、ソフトドリンクなど、海外では軽食を出す店を指し、必ずしもアルコールを出す店ではありません。
ですから、海外の「スナック・バー」と日本の「スナック」はまったく別のものと考えるべきです。むしろ1964年の東京オリンピック開催に際しての法規制によって生まれた、日本独自の業態です。
詳しくは本書の伊藤正次、亀井源太郎、宍戸常寿の各論文を読んでほしいのですが、キャバクラやクラブは「風俗営業」にあたり、スナックの多くは「深夜酒類飲食店営業」になります。ほとんどのスナックは「風俗営業」ではないため、客の隣に座って接客ができません。ですから、ママ(もしくはマスター)と客がカウンターで隔てられているのです。
【参考記事】ゲイバーは「いかがわしい、性的な空間」ではない