最新記事

セクシュアリティ

歴史の中の多様な「性」(5)

2015年12月4日(金)16時42分
三橋順子(性社会・文化史研究者)※アステイオン83より転載

もっと先へ いろいろな「性」の人、ジェンダー・セクシュアリティの人が共生できる、多様で豊かな日本になってほしい Dabitxu7-iStcokphoto.com


論壇誌「アステイオン」(公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会編、CCCメディアハウス)83号は、「マルティプル・ジャパン――多様化する『日本』」特集。同特集から、自身トランスジェンダーであり、性社会・文化史研究者である三橋順子氏による論文「歴史の中の多様な『性』」を5回に分けて転載する。

※第1回:歴史の中の多様な「性」(1) はこちら
※第2回:歴史の中の多様な「性」(2) はこちら
※第3回:歴史の中の多様な「性」(3) はこちら
※第4回:歴史の中の多様な「性」(4) はこちら

おわりに――多様性とは豊かさである

 最近話題の「同性パートナーシップ」問題から入って、もっぱら「男色文化」と「同性愛」の過去と現在について述べてきた。その一方で、私の本来の専門であるトランスジェンダー(性別越境)については、あまり触れなかった。

 実は、『アステイオン』の依頼と前後して、評論誌の『ユリイカ』と『現代思想』(いずれも青土社)から執筆依頼があり、トランスジェンダーについて書きたいことは、そちらにだいたい書いてしまったからだ。トランスジェンダーについて興味がある方は、『ユリイカ』二〇一五年九月号の「トランスジェンダー文化の原理─双性のシャーマンの末裔たちへ─」と『現代思想』同年一〇月号の「日本トランスジェンダー小史─先達たちの歩みをたどる」を読んでいただけたら幸いに思う。

 そこでも書いたことだが、私は、同性愛者やトランスジェンダーのような非典型な性をもつ人たちは、人類のどの時代、どの地域にも、ほぼ一定の割合で普遍的に存在する(いつでも、どこでもいる)と考えている。完全な証明は難しいが、いろいろ調べていくほどに、そう考えた方が合理的に思えてくる。つまり、同性愛者やトランスジェンダーが示す人間の性的多様性は、人類の文明に最初から組み込まれていたもの、「自然」なのだ。

 そうした根源的・普遍的な存在を抑圧・抹殺しようとする方が「不自然」であり、その存在を承認して活用した方が、社会の在り方として優れていると思う。

 違う言い方をすれば、ジェンダー・セクシュアリティの多様性は、すでに日本の歴史の中に存在しているということである。それを無視することなく、根本的な社会規範が異なる欧米にいたずらに追従するのではなく、私たちの先人が歩いてきた道筋をしっかり見つめながら、現代日本社会におけるジェンダー・セクシュアリティの多様性を裏打ちする形で生かしていくべきだと思う。

 私は、一人のトランスジェンダーとして、「私はなぜこうなのだろう?」と自問することから始めて、自分と同じような人たちの歩みを遡る形で、トランスジェンダーの歴史研究に打ち込んできた。その結果、日本で初めてトランスジェンダーとして大学の教壇に立つことができた(二〇〇〇年、中央大学文学部)。口幅ったいが、自分なりの努力を重ねて日本のトランスジェンダー・スタディーズの基礎を作り、トランスジェンダーの社会進出の学術的な方面での道を切り開いてきた自負はある。しかし、そこまでが限界で、保守的な日本の学界、硬直した大学の人事システムの壁はついに打ち破れず、一介の「野良講師」で終わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中