最新記事

映画

ひと味違う少年と負け犬の物語『シーヴァス』

2015年10月26日(月)18時01分
大橋 希(本誌記者)

アスラン(中)は負け犬だったシーヴァスを助け、かけがえのない関係を築いていく ©COLOURED GIRAFFES

アスラン(中)は負け犬だったシーヴァスを助け、かけがえのない関係を築いていく ©COLOURED GIRAFFES

 もちろんこの地方で撮った理由はある。犬と馬と大自然、暴力社会や男社会の冷たさを表わすような乾いた色合いなど、この映画のストーリーや構想に合う特徴があるから。これがエーゲ海地方なら、海があってラクダがいたりする。

 自分がよく知っている場所で映画を撮りたかったというのもあるね。私はアンカラ生まれだが、家族はアナトリア地方の出身。撮影をしたのは私の祖父母が暮らしていた村で、夏休みによく遊びに行った。

――アスラン役のドアン・イズジは演技経験がない。プロの子役は使わないと最初から決めていた?

 脚本を書いたときからそう思っていた。この映画ではリアリティと動物の自然な姿がとても大切だった。動物のワイルドさを描きたかったから、ちゃんとした訓練を受けた子役でなく、しかもその地方で暮らしている人間を選んだ。リアリティは周囲の環境や色合い、光、太陽、子供や動物の自然な姿など、そのすべてが一体化して表現されるものだ。

――闘犬の場面は、目を背けたくなるほどリアルだった。
 
 以前にドキュメンタリーを撮ったときにいろいろな犬の闘い方を見たが、犬の大きさや体重によって出す声や音は全然違う。だから闘いの場面ではその現場の音声は使わず、体重別に分類して記録した犬の声を後から合成した。先ほども言ったが、リアリティを表現するには声も明かりもカメラの動きもそれに合ったものにしなければならない。

 ある場面では犬にカメラをわざとぶつけた。「ミスでは?」と思えるかもしれないが、わざとやったんだ。いかに現実味のある表現ができるかを考えてカメラを動かして、その場面が生まれた。

――あなたはカフェやブランドなども経営している。映画作りに影響することは?

 いろいろな人々と接する中で得たことが、もちろん映画の中に反映されている。

 もう1つ大きいのは、経済的な自立を支えてくれること。映画はたくさんのお金が必要な芸術だから。私はスポンサーからの依頼で映画を作っているわけではない。自分が好きなように、撮りたいテーマで映画作りができることは監督にとって大事なことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中