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明治日本の産業発展にまつわる「残酷」をひも解く

2015年7月6日(月)19時00分
印南敦史(書評家、ライター)

 昭和34年(1959年)から36年(1961年)にかけて平凡社が刊行した『日本残酷物語』は、文字どおり「残酷」をテーマにした全7巻からなるシリーズ。第一部から第五部と名づけられた5巻と、「現代編」2巻で構成されていた。

 敗戦からの復興を遂げ、1964年開催の東京オリンピックを控えて、高度成長の道を登りつつあった日本。その時代の空気に逆行するかのように、日本の近世、近代、現代の民衆の歴史を「残酷物語」と銘打って明らかにしたのが『日本残酷物語』だった。

 中心人物は、民俗学者の宮本常一と編集者の谷川健一。第一部『貧しき人々のむれ』の巻頭に谷川が記した「刊行のことば」は、同シリーズの刊行意図を明確にいい表している。


 これは流砂のごとく日本の最底辺にうずもれた人々の物語である。自然の奇蹟に見離され、体制の幸福にあずかることを知らぬ民衆の生活の記録であり、異常な速度と巨大な社会機構のかもしだす現代の狂熱のさ中では、生きながら化石として抹殺されるほかない小さき者の歴史である。民衆の生活体験がいかに忘れられやすいか――(10ページより)


 本書では、当時の環境下における宮本や谷川の思いと、そこを起点とした編集現場のサイドストーリーを交えながら、『日本残酷物語』がなぜ生まれたのかを明らかにしている。

 つまり軸をなしているのは"裏話"であり、悲惨なエピソードが羅列されているわけではない。しかし、だからこそ逆説的に、『日本残酷物語』の存在価値が浮かび上がっている。

 まずはここを起点として、現在は「平凡社ライブラリー」から発売されている『日本残酷物語』を読んでみるのもいいかもしれない。



『『日本残酷物語』を読む』
 畑中章宏 著

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