最新記事

映画

アンジーの迫力全開『マレフィセント』

2014年7月28日(月)11時53分
デーナ・スティーブンズ

 やがてステファンは王になり、娘のオーロラ姫は呪いをかけられる。この後半のマレフィセントの描写は、ミュージカルの『ウィキッド』、アニメの『メリダとおそろしの森』『アナと雪の女王』に重なるところがある。典型的な女性の悪役(魔女、支配的な母親、雪の女王)も傷ついた複雑な存在で、弱さをのぞかせるのだ。

 ステファン王が少しずつ正気を失っていく部分はかったるく、コプリーの演技も大げさだ。でも映画が中だるみ気味になったまさにその時、美しい娘に成長したオーロラ姫が登場。ストーリーの中心は、幸せいっぱいのオーロラと孤独で冷たいマレフィセントとの関係に移っていく。

 2人の仲がどう深まっていくかはこの映画の核心だし、私も意表を突かれたので先は言わないでおく。これをフェミニスト的な作品と呼ぶなら(冒頭でその「視点をちょっぴり」と書いた)、それは女性間の愛情の複雑さと大切さを思い起こさせるからだ。あえて不満を言えば男性の登場人物、とりわけステファンの性格描写が浅いことだ。

 59年のディズニーアニメ『眠れる森の美女』と同じく、赤ん坊のオーロラ姫を育てる心優しくて騒々しい妖精3人も登場する(芸達者なイメルダ・スタントン、レスリー・マンビル、ジュノー・テンプル)。

あえて「おとぎ話」のままに

 マレフィセントに仕える樹木の生き物は『ロード・オブ・ザ・リング』の木に似た巨人の種族エントや、『ノア 約束の舟』の岩の怪物のよう。カラスから人間に姿を変えられるマレフィセントの従者ディアヴァル(サム・ライリー)は、こうした役柄にありがちなわざとらしさがなくて、変身シーンの特撮もまずまずだ。

『マレフィセント』はおとぎ話のジャンルをあえて飛び出そうとはしていない。それでもこの物語にはしっかりとした土台があるから、甘くて子供向けの脚色は成功している。

 映画を見ながら、私の8歳の子供を連れてこられたらよかったと思った。昨今は演出過多で上映時間が長く、暴力シーンの多い子供映画が多いから、こんな気持ちになるのは珍しい。

 監督はこれがデビュー作となるロバート・ストロンバーグ。演出過多で長時間の『アリス・イン・ワンダーランド』『オズ はじまりの戦い』のプロダクションデザインを手掛けた人物だ。

 しかしストロンバーグは今回、これまでの映画にはないものに恵まれた。原作の力強さが感じられる優れた脚本だ(『美女と野獣』『ライオン・キング』のリンダ・ウルバートン)。

 そして何よりもアンジェリーナ・ジョリー。巨大な翼で飛ぶ姿に違和感がない女優は、国連親善大使を務めながらブラッド・ピットと6人の子供を育てる彼女くらいだろう。

© 2014, Slate

[2014年7月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

野村HDの前期純利益、約2倍で過去最高 北村CFO

ワールド

中国、米関税の影響大きい企業と労働者を支援 共産党

ビジネス

スイス経済、世界的リスクの高まりに圧迫される公算大

ビジネス

円債、入れ替え中心で残高横ばい 国内株はリスク削減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中