最新記事

テレビ

リアル過ぎてヤバいドラマ

米航空機爆破未遂事件で『24』の評価はアップ。現実世界とドラマの境界線はますます曖昧になりつつある

2010年2月25日(木)13時37分
ジョシュア・オルストン(エンターテインメント担当)

正義漢 『24』の筋立てはワンパターンと言われるが(写真は主人公ジャック役のキーファー・サザーランド) Danny Moloshok-Reuters

 24時間の間に起きる出来事をリアルタイムで描く人気ドラマ『24』のシーズン8が、1月17日にアメリカでスタートした。

 主人公ジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)は危険な任務から離れて、家族と過ごす時間を大事にするつもりだった。ところがニューヨークで飛行機に乗る直前、とんでもない情報が飛び込んでくる。

 そもそもテロリストと無縁の生活を送ろうというのが無理な話だ。ジャックは人命を救うため、一刻を争う闘いに身を投じる。

 これは『24』のお決まりのパターンだ。アメリカ人が危険にさらされ、ジャックが手段を問わずに脅威をたたきつぶすという展開。テレビ評論家は『24』のシーズン6が始まる頃、ワンパターンの大げさな筋立てのせいで視聴者に見放されるだろうと評していた。

世論を動かす人気作品

 だが予想は外れた。シーズン8は面白さだけでなく現実世界の出来事を彷彿させるリアルさまで、番組に勢いがあった頃のレベルに戻ったように思える。

『24』への関心が高まった背景には09年のクリスマスに起きた米航空機爆破未遂事件がある。事件が起きなかったら、シーズン8は代わり映えのしない内容だと思われたかもしれない。

 いまアメリカ人の視聴者が求めているのはまさに『24』が繰り返してきたテーマ。ジャックのような正義漢が多くの障害をはねのけて悪に立ち向かう物語だ。

 シーズン2では、いかにも怪しげなイラン人が潔白で、彼の白人の婚約者がテロに関与していた。09年12月に起きたテロ未遂事件の容疑者がナイジェリア人だったように、テロリストは中東系の人物とは限らない。早くから『24』はこの点に着目していた。

『24』のシーズン1がスタートしたのは01年の9・11テロの2カ月後。その時点には及ばないが、今が視聴者の関心を集めやすい状況であるのは間違いない。脅威が身近に存在することを現実世界が突き付けたのだから。

 驚くほど「リアル」なドラマは『24』だけではない。3月にシーズン3が始まる予定の『ブレイキング・バッド』もその1つだ。

 主人公は温厚な高校の化学教師だったが、ドラッグの製造に手を染める。きっかけは末期の肺癌と診断されたこと。主人公は高額の治療費で家族を苦しめるより、彼らに大金を残そうと考える。

 ところが08年1月にシーズン1がスタートする1カ月前、カリフォルニア州の化学教師が同じ種類のドラッグを作って逮捕されるという事件が起きた。今やドラマと現実を隔てる壁が崩れてしまったかのようだ。

 現代人の心に潜む不安をストーリーに取り込んだドラマもある。今夏にシーズン3が始まる予定の『レバレッジ』の主人公は保険会社の元調査員。自分の子供が重病になり、勤務先の会社が未認可治療の保険適用を認めなかったせいで子供を亡くし、生活は崩壊。彼は詐欺師のチームを結成し、権力に苦汁をなめさせられた被害者に代わって敵討ちを行うようになる。

 時事問題はドラマのリメークにも利用される。エイリアンの侵略をテーマにした80年代のSFドラマ『V』のリメーク版が09年11月に放映された。「希望と変革」を掲げながら実は邪悪な目的を持ったエイリアンが登場するが、オバマ政権を風刺しているのは明らかだった。

 複数の調査によると、多くの若者が情報を得る手段として頼っているのは時事問題をネタにした風刺番組『デーリー・ショー』だ。しかしホストのジョン・スチュワートは、自分の役割は報道ではなく、視聴者を楽しませることだと語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中