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疾走の24時間がまた駆け出した

原点回帰で輝きを取り戻した『24』シーズン7、ファンが求める「変化」に応えて進化を遂げる

2009年4月7日(火)16時34分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

 今度のジャック・バウアーは、これまでの『24』シリーズとはかなり違う。

 テロリストと死闘を繰り広げたりはせず、孤児のキャンプでカウンセラーをしている。しかも舞台はロサンゼルスではなく、アフリカのサンガラという架空の国だ。爆発なし、命を狙われることもなし。常に追跡される身でピリピリしていたのが嘘のように、平穏な精神状態でいるらしい。

 新しい物語は、主人公のバウアーが絵はがきのように美しい大地に立ち、その周りでアフリカの子供たちがサッカーをしている場面で始まる。

 とはいえ、これまで6シーズンにわたってアメリカ(と世界)の視聴者の手に汗を握らせてきた大ヒットサスペンスのこと。このままでは終わらない。ほのぼのした幕開けとは裏腹に、シーズン7のプロローグ的位置づけをなす2時間のテレビ映画『24 リデンプション』は、始まって数分でたちまち不吉な影が差してくる。

 サンガラでは軍事クーデターの真っ最中で、子供たちが反乱軍に無理やり徴兵される。この2時間ドラマは、子供たちを安全な場所に逃がそうとするバウアーの奮闘が一つの軸になっている。

 ある場面でバウアーは登場人物の一人に、どうしてアフリカの孤児収容所にいるのかと尋ねられる。「これまでに犯した罪の償い?」。バウアーはこう答える。「そのことは話したくない」

薄っぺらい脚本は卒業?

 バウアーを演じる俳優キーファー・サザーランドも、自分自身の「罪」については話したがらないだろう(1年ほど前に飲酒運転で48日間の刑務所暮らしを経験)。

 大失敗に終わった『24』のシーズン6についても話題にしたがらない。批評家がシーズン6を「荒唐無稽」と批判したのも無理はない。中国で拘束されていたバウアーは、米中両国政府の交渉によりアメリカに引き渡されるが、それには裏があった。米政府はあるテロ勢力と取引し、彼らにバウアーの身柄を渡すために彼を奪還したというのだ。

「もっとエキサイティングに」というプレッシャーを感じすぎて、脚本家たちは荒唐無稽路線をエスカレートさせてしまったらしい。もともとこのシリーズに現実離れした面があるのは事実だが、シーズン6は結局、盛り上がりを欠いたまま終わってしまった。

 11月某日、シーズン7のプロモーションイベントで、前シーズンの視聴率低迷について質問を浴びせられたサザーランドは、ぶっきらぼうに言った。「批評家にはたたかれたが、ファンの考えは違ったと思う。(面白いと言ってくれる人に)街で大勢会った」

 そうだとすれば、『リデンプション』を面白いと感じる人はもっと多いはずだ。今回は、最近のシーズンのような大げさでとっぴな設定に走らず、『24』シリーズの原点である(そして人気の理由である)シンプルなアクションドラマに回帰したようにみえる。

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