最新記事

BOOKS

書くことは「撃つ」こと、考えること。簡単ではないが、書ける人は強い

2020年12月28日(月)17時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


 常套句を使うとなぜいけないのか。あたりまえですが、文章が常套的になるからです。ありきたりな表現になるからです。
 しかし、それよりもよほど罪深いのは、常套句はものの見方を常套的にさせる。世界の切り取り方を、他人の頭に頼るようにすることなんです。(53ページ)

既にいろんな人によって使い古された表現である「抜けるように青い空」と書いた時点で、書き手はまともに空を観察していない、というのである。

他者の目で空を見て「こういうのを抜けるような青空と表現するんだろうな」と感じているだけなのではないか。他者の頭に自分を預けてしまっている。自分で考えることを放棄している。

空を見て、なにかを感じたという、いつもとは違うその気分、特別な心持ちを、自分の五感で観察し、自分だけの言葉で描き出そうとする。そうすることが、文章を書くことの最初であり、最後だと、著者は説く。


「言葉にできない美しさ」と、よく人はいいますが、それは言葉にできないのではない。考えていない。もっといえば、当の美しさを、ほんとうには感じてさえいないからなんです。(56ページ)

ここまでで、考え抜くなんて面倒くさい。表現など自分には無用。最低限のコミュニケーションとして書く文章だけでじゅうぶんだ、と思った人もいるだろう。果たしてそれでよいのだろうか。

うまいメールを書ける人は出世する


 表現者というのは、画家や小説家やミュージシャンだけではないんです。職人さんだろうと公務員だろうとサラリーマンだろうと、仕事とは、結句、表現ですよね。商品や技術やサービスを売る。自分のことを、表現する。労働の本質は、そこです。(20ページ)

プロや、いい文章を書いてみたいと思っている人だけとはかぎらない。文章を書ける人は、ビジネスの現場でも有利である。

現代人は日常的にメールを書く。そのことに長い時間を費やす。メールの大半はなんらかの交渉のために書かれる文章だ。相手を口説くために書く。うまいメールを書ける人は出世する。

『三行で撃つ』では、上手なメール(手紙)として、編集者の依頼状を例に説明している。編集者は、一流の作家やライターという文章の練達の士を文章で口説く。

依頼の際は相手を三手で詰める。「自分はあなたを知っている」→「自分はこういう者である」→「したがって自分にはあなたが必要だ(あなたにも、自分は有用だ)」。

ただし、ストレートに「あなたと仕事がしたい」と書くだけでは、意外性がない。相手の「心を撃とう」とするなら、依頼者は自分だけの五感で相手を観察し、自分だけの言葉で、相手さえ気づいていなかった評を添える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中