最新記事

BOOKS

書くことは「撃つ」こと、考えること。簡単ではないが、書ける人は強い

2020年12月28日(月)17時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

shaunl-iStock.

<名文記者として知られる朝日新聞編集委員、近藤康太郎氏。その彼が、いい文章を書くための25の文章技法を惜しみなく明かしたのが、新刊『三行で撃つ』だ。本書には、数多の文章術の実用書と決定的に異なる点がある>

「誰でも書ける」「すぐ書ける」「簡単に伝わる」と謳う文章セミナーや実用書が人気だ。しかし、果たして、そうした惹句は誠実なのか。

じっさいに、文章で何かを表現しようとしたことがある人は、すぐに気づくだろう。文章を書くということは、考えるということだ。その営みが簡単なわけはない。

最初の三行で、読者をのけぞらせる


自分のなかに、どうしても解決できない、しかし解決しないと前に進めない問いがある。その問いに答えようと試みるのが、究極的には〈書く〉ということの本質だ。(302ページ)

これは、名文記者として知られる朝日新聞編集委員が上梓した新刊『三行で撃つ――〈善く、生きる〉ための文章塾』(CCCメディアハウス)の一節だ。

著者の近藤康太郎氏は30年以上にわたり、新聞、雑誌、書籍と、さまざまなメディアに休むことなく文章を書き続けてきた。現在は、百姓や猟師の顔も持ち、朝日新聞紙上で「アロハで猟師してみました」「多事奏論」といった看板コラムを担当する。さらには、社内外の若手の記者やライターに、ただで文章を教える場(私塾)も提供している。
sangyou-de-utsu20201228-cover200.jpg
プロを相手に、文章や表現について説明することで、自らが学ぶ。『三行で撃つ』には、教えることで言語化されていったテクニックを「隠し弾」なしに、惜しみなく書いた。

初心者猟師が1羽の鴨を撃とうとすると、25発もの弾を使う。それになぞらえた本書は、初心者から使える「"いい文章"を書くための文章技巧25発」で構成される。

書き出しの三行、起承転結、一人称、文体、禁則事項ほか、1冊読めば、基本的な文章技術をすべて学ぶことができる。「書き出しの三行」とは、本や文章を読んでもらうには、最初の一文、長くても三行以内に、読者を驚かせ、のけぞらせなければならないということだ。それゆえの「三行で撃つ」である。

同時に、本書が数多の文章術の実用書と決定的に違うのは、読み進むほどに、言葉、文章、書くこと、つまりは、生きることの意味を考え抜かざるを得なくなる点だろう。

書くことが簡単なわけはない。しかし、考え抜き、自分の知らなかった自分を発見することは歓びである。だから書くことは、きっと愉しい。書きたく、なる。わたしに〈なる〉ために。

それが『三行で撃つ』に通底する思想である。では、考え抜くとは具体的に、どういうことか。

常套句を使うのが罪深い、2つの理由

例えば、著者が、文章の禁じ手のひとつとして挙げるものに「常套句」がある。常套句を使うことが、考えるという行為の妨げになるからだ。

常套句とは、定型、クリシェ、決まり文句のことをいう。「抜けるような青い空」「燃えるような紅葉」といった表現だ。文章を普段からよく読む人ほど、かえって使ってしまいがちな表現だろう。こなれているようにさえ思える。しかし、これがいけないという。なぜか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ

ワールド

再送-日鉄副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中