最新記事

メンタルヘルス

うつ病と燃え尽き症候群はまったく違うのに、見当違いな治療が蔓延している

2020年11月11日(水)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

それと同時に、本書は、薬物療法における一律的な対症療法を批判する。実際、同じ種類の薬が、うつ病や燃え尽き症候群だけでなく、摂食障害や睡眠障害、椎間板ヘルニア、ストレスによる膀胱機能障害など、多くの精神的・身体的不調に処方されているという。

だが、うつ病というのは、さまざまな要因が相互に影響を及ぼすことで発症するものであり、心と体を一体として見ないことには一向に抜け出せないと著者は説く。確かに重度の場合には薬が必要だが、それでも服用は数カ月間だけで、うつ病は基本的に薬で治療する必要はないのだという。

また、うつ病の原因は脳内のセロトニンやノルアドレナリンの不足だと言う医師がいまだにいるが、うつ病を示す脳内物質はない。うつ病の人にセロトニンが欠乏しているという科学的根拠は一切なく、幸せとセロトニン濃度との関係も一度も証明されていないという。

したがって、これらの物質を操作する抗うつ薬にはほとんど意味がなく、そもそも「抗うつ薬」と呼ぶことが間違っていると指摘する医師もいる。さらに著者は、近年うつ病の患者が劇的に増加しているのは、これらの薬が大量に投与されたからではないかとも述べている。

「どうか的を射たセラピーを」著者のメッセージ

「どうか的を射たセラピーを」――これは著者が一貫して主張している点だ。心理療法や生活環境を変えることの他にも、有効な方法はたくさんある。太陽の下で運動するだけで良くなる人もいるという。

さらに本書には、脳を支配している「思い込み」から抜け出し、脳を新たに再起動することで、落ち込まない自分になるためのトレーニングの他に、やっぱり落ち込んでしまったときに素早く克服するための簡単なテクニックも用意されている。

著者は言う――「いずれにせよ、医学の歴史において、実証されていた方法があとになって間違っていた、いやそれどころか有害であることがわかったケースは、決して珍しいことではありません」。

そう言われると、果たして何を信じればいいのかという気にもなるが、前作に続き本書の日本語訳を手がけた平野卿子氏は、次のように書いている。


(前略)いまさらのように感じたのは、自分の身を守るのは自分しかいないということです。けれどもそれは、まわりに助けを求めないということではありません。他人に迷惑をかけなくないからと、苦しみを隠してはいけない。

激変した日常に誰もが振り回された2020年。「コロナうつ」という言葉も登場しているが、その一方では、今まさに燃え尽きようとしている人々も多いはずだ。

本書で紹介されているのは「小さな一歩」ではあるが、それは間違いなく、晴れやかな日々を取り戻す一歩となるだろう。


敏感すぎるあなたへ――
 緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』
 クラウス・ベルンハルト 著
 平野卿子 訳
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


落ち込みやすいあなたへ――
 「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』
 クラウス・ベルンハルト 著
 平野卿子 訳
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中