エディー・ジョーンズに学ぶ「気配り」のリーダーシップ
「君がコーチならどうするか?」
何を目指し、何をすべきか。この二つをすぐに与えてくれる上司がいたら、部下は何も考えなくていい。
その時はラクで居心地がよく、「いい上司に恵まれた」と思うかもしれない。
しかし、それではいざ自分がリーダーとなった時に戸惑うだけである。どう目標を見つけ、どう達成したらいいか、自ら決める訓練をしていないからだ。
優れたコーチは、たとえ時間がかかっても、「君がコーチだったらどうするか?」という問いかけを続ける。
もちろん、自分が答えを出した方が早いに決まっている。短期的には出るはずの成果も出せず、歯がゆい思いをすることもあるだろう。
しかし、その間もずっと「君がコーチならどうする?」という問いかけを続けていくと、選手たちはいつのまにか"リーダーの模擬体験"を何度も経験することになる。
結果、いざ本当にその立場になった時に、「今までずっと考えてきたことを実行すればいいだけ」という準備ができている。いつの間にかリーダーが育っているのだ。
たった一人のカリスマに頼らない、持続的成長が可能な強いチームができあがるレシピである。
一つの方法にこだわらない
熱心な人ほど陥りがちなのが、「自分はこの方法で行く」と決めた瞬間から、その方法に固執してしまうという失敗だ。
経験上、リーダーが身につけるべき資質の一つが、状況に応じて自分の立ち回りを変える柔軟性である。成果にこだわれば、自然とできる振舞いであるはずだ。
「自分のやり方」を一つの型に決め込まず、時には押し、時には引き、支え、待ち......といろいろな型をもって動き回る。
すると、様々な状況に応じた戦法をとれることになり、環境の変化に対する耐性も備わっていく。
ワセダラグビー部の監督を退任した時、雑誌の企画で「清宮・中竹比較」という特集が掲載されたことがある。
記事の中で、清宮監督の下で2年、私の下でも2年、コーチを務めていた人物がインタビューに答えていたのだが、彼は「結局、両監督とも同じでした」と言っていた。
世間一般のイメージでは真逆のタイプと言われてきたので、同席した編集者も驚いたようだ。あの清宮監督と同じと評されるとは、私にとっては光栄な賛辞でしかないのだが、元コーチはこう続けていた。
「日本一というゴールに向かって、様々な武器や技を出したり引いたり。振り返ると両監督は同じ考えで同じようなことをやっていたように思います」