最新記事

リーダーシップ

エディー・ジョーンズに学ぶ「気配り」のリーダーシップ

2018年1月22日(月)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

一対一のコミュニケーションを大事にする

2015年ラグビーワールドカップで強豪・南アフリカ代表を破るという快挙を遂げた名将、エディー・ジョーンズは、どちらかというと、強力なトップダウン型のリーダーだというイメージを持つ人が多いのではないだろうか。

当時テレビでよく流れたのは、彼が練習中のグラウンドで強い言葉で選手を指示し、怒鳴りつけ、鼓舞するような場面だった。

しかし、それは彼のほんの一面でしかない。

私はたまたま目撃し、本人にも確認したのだが、彼は合宿中の毎回の食事で、選手全員とできる限り話すように心がけている。特に大事な試合の直前合宿の初日と2日目には、選手と一対一の会話をする機会を意識的に作っている。

食事というインフォーマルな場で冗談を交わしながら、時に真剣にアドバイスをしたり、エディーのほうから選手に質問したりと、様々な役回りをしながら選手全員と一対一のコミュニケーションをとっている。

この場面を知らずにエディーのスタイルを真似ようとしたら、ただ怒鳴り散らすだけの間違った模倣をしてしまうかもしれない。当の本人は、怒鳴り散らした後に、きめ細かな気配りで選手を励ましているのだから。

このシーンが世間的にあまり知られないのは当然のことだ。選手一人ひとりにとっては、エディーの行動は「自分だけに語ってくれた個別のコミュニケーション」でしかなく、彼がそれを他の選手にもやっていることまで把握する余裕はない。エディー自身が「実はこんな気配りをしている」と自ら披露することもないだろう。

彼の行動に気づいた私は、本人に聞いてみたことがある。「それは意識的にやっているのか?」と。

エディーは頷いて即答した。「この合宿では、特にコミュニケーションが大事だと思っているから」

さらに聞けば、以前は「どの選手と会話したか」をセルフチェックするためのリストも作っていたという。

「部署のメンバー全員と言葉を交わしたか」を毎日チェックしている部長は、日本に何人いるだろうか。

それくらいエディーは本気だったということだ。

嫌われることを恐れない。そしてフォローもする

選手を育成する先に見据えるゴールは、選手自身の成長であり、チームが目標としている成果の達成である。

このゴールの達成のために、言うべきことはハッキリと伝え、自分の責任で決めなければいけないことは即決するというのが優れたコーチの特長だ。

人は誰でも他人に好かれたいという気持ちがあるから、反発や批判はできるだけ遠ざけたい。でも、心から成果を望むのであれば、そうは言っていられない場合も多々ある。

スポーツのトレーニングは典型的で、心身を限界まで追い込むからこそ獲得できる成長を見込んで、過酷な課題を突きつけていく。嫌われても、恨まれても、選手とチームの成長にとって必要な道筋となれば、やるしかない。

まさに崖から子を突き落とすような行動なのだが、優れたコーチは「突き落としっぱなし」には決してしない。

「どの場面でどういうふうにフォローするか」まで計画して、バランスを取っていることが多い。

ちなみに、私自身の監督経験を振り返ると、人事、すなわち選手選抜に関しては即決することをいつも心がけてきた。

人事というのは他人からの批判を気にし出すといつまでも定まらないものだが、決めるときは決めるのがリーダーの責務だと考えていた。たいていのことは選手に任せることに徹していた私が唯一、"強力なリーダーシップ"を発揮していた場面かもしれない。

嫌われることを恐れないという資質は、上に立ち、結果を出すためには不可欠だと思っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中