指示出しても「聞いてませんでした」...伝達ミスはコマンドの出し方を変えれば「攻略」できる
現場に伝達すべきことを、「これ、現場に落としといて」と表現することがあります。ピラミッド型の組織において、上(経営者)から下(現場)に情報を下すというイメージなのでしょう。
しかし、情報というのは重力に従って木からリンゴが地面に落ちるように、自然と下りていくわけではありません。 何度も何度も「これでもか」というほど伝えて、ようやく浸透するかしないかというものです。
では、どうすれば「伝わる情報伝達」ができるのでしょうか。
1971年に、アルバート・メラビアンという心理学者が提唱した法則があります。人間同士のコミュニケーションにおいて、「言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%の割合で相手に影響を与える」という心理学上の法則で、「メラビアンの法則」と呼ばれています。つまり、情報伝達率以前の問題で、言語だけで物事を伝えることに、そもそもの無理があるということです。
もう一つ、われわれのクライアントである、とある高級飲食店の事例を紹介します。そのお店では、外国人スタッフに向けて、お客様へお水を提供する際、どうすれば丁寧な印象を与えられるかということについて、熱心に指導をしていました。
当初、「丁寧に置きましょう」という言葉だけで説明していたところ、数週間が経過しても状況は変わらず、動作が乱雑なままでした。丁寧さの基準や価値観は人によって異なりますし、どの程度の丁寧さを求められるのかまでは、言葉だけではなかなか表現できません。
このため、われわれが下掲のように動画で解説したところ、即座に全スタッフが理解し、動作が変わったのです。
動画では丁寧な動作と乱雑な動作の比較をスローモーションで見せ、「小指を先にテーブルにつける」「グラスを置いてから一秒後に指を離す」などポイントをはっきり言語化して伝えています。
さらにこれを、「パターンAとパターンB 、どちらの置き方のほうがより丁寧に感じますか?」とクイズ形式にしてスタッフたちに解答させるのも効果的でしょう。それによってスタッフたちは「AとBは何が違うんだろう」としっかり見比べ、より能動的にその動画から学び取ろうとするためです。
「○○してください」と口頭での指示だけでは、聞いた側も理解した気になるだけで、行動が変わらない、行動に移さないということが多々あります。時には動画や画像などの視覚情報を活用したり、クイズなどの能動性を引き出す仕掛けで記憶定着を促すことが重要です。
※第3回はこちら:「とりあえずやってみる」は絶対NG...幹部や先輩からの「的外れ」アドバイスの正しい対処法
中谷一郎
大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法の特徴は、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。
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