日本はSDGs浸透度「世界一」、この武器をどう使うかが次の課題だ──蟹江憲史教授
SDGs認知は広がったが、分かりやすくし過ぎた
――著書の『SDGs(持続可能な開発目標)』(中央公論新書、2020年)に、SDGsという言葉を初めて聞いたのは2011年とあった。国連で採択される4年前だ。
そうです。それまでは環境関係の国際政治を研究していて、気候変動の枠組みづくりとか、モデリングの専門家と一緒に目標設定をしたりしていた。2012年に「リオ+20」という国連持続可能な開発会議がリオデジャネイロで開催されたが、そのプロセスの中でSDGsの提案が出てきた。
――その頃、日本では誰もまだSDGsを知らない。
世界でも、まだ誰も知らない。当時、MDGsの後をどうするかという議論があり、まず目標を作って、そこから進めていくアプローチ(現状の延長線上ではなく、未来のあるべき姿から考えて行動する「バックキャスティング」)が非常にユニークだと考え、注目し始めた。
このSDGsは今後重要になっていく、注目しておいてほうがいいよと、私自身、リオの会場で国際NGOの人とか、いろいろな人に話していたらしい。後になって、「あの時、言ってくれてよかった」と感謝されることが多い。
――それから12年が経った。振り返ってみて、どうか。
かなり浸透はしたと思う。特に日本は、SDGsの浸透度で言えば、世界一と言っていいぐらいだ。これだけ多くの人がSDGsを認知している国はない。この浸透度をどう武器として使っていくかが、次の課題だと思う。
一方で、認知を広げるためだったが、少し分かりやすくし過ぎた面もある。「まずやってみよう」と強調し過ぎたところがあり、軽く捉えてしまう人たちも結構いる。その裏には大きな危機感があるのだが、危機感よりも、楽しそうだからやってみようと。
ポジティブに捉えながらも、本気で取り組んでいくことが大切だと、メッセージを変えていく必要を今は感じている。
蟹江憲史(かにえ・のりちか)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表
内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員、JALサステナビリティアドバイザー、日本政府SDGs推進円卓会議構成員などを務め、国内外でSDGsや環境問題を中心に多方面で活躍中。国連事務総長の任命を受けた独立科学者15人の1人として、Global Sustainable Development Report 2023 (GSDR 2023)の執筆を行った。専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システム・ガバナンス。SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図っている。主な著書に『SDGs(持続可能な開発目標)』(中央公論新社、2020)など。
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