最新記事
インタビュー

日本はSDGs浸透度「世界一」、この武器をどう使うかが次の課題だ──蟹江憲史教授

2023年12月21日(木)18時00分
森田優介(ニューズウィーク日本版デジタル編集長)

洋上風力発電

Peter Adams Photography-shutterstock

SDGs認知は広がったが、分かりやすくし過ぎた

――著書の『SDGs(持続可能な開発目標)』(中央公論新書、2020年)に、SDGsという言葉を初めて聞いたのは2011年とあった。国連で採択される4年前だ。

そうです。それまでは環境関係の国際政治を研究していて、気候変動の枠組みづくりとか、モデリングの専門家と一緒に目標設定をしたりしていた。2012年に「リオ+20」という国連持続可能な開発会議がリオデジャネイロで開催されたが、そのプロセスの中でSDGsの提案が出てきた。

――その頃、日本では誰もまだSDGsを知らない。

世界でも、まだ誰も知らない。当時、MDGsの後をどうするかという議論があり、まず目標を作って、そこから進めていくアプローチ(現状の延長線上ではなく、未来のあるべき姿から考えて行動する「バックキャスティング」)が非常にユニークだと考え、注目し始めた。

このSDGsは今後重要になっていく、注目しておいてほうがいいよと、私自身、リオの会場で国際NGOの人とか、いろいろな人に話していたらしい。後になって、「あの時、言ってくれてよかった」と感謝されることが多い。

蟹江憲史

Photo:遠藤 宏

――それから12年が経った。振り返ってみて、どうか。

かなり浸透はしたと思う。特に日本は、SDGsの浸透度で言えば、世界一と言っていいぐらいだ。これだけ多くの人がSDGsを認知している国はない。この浸透度をどう武器として使っていくかが、次の課題だと思う。

一方で、認知を広げるためだったが、少し分かりやすくし過ぎた面もある。「まずやってみよう」と強調し過ぎたところがあり、軽く捉えてしまう人たちも結構いる。その裏には大きな危機感があるのだが、危機感よりも、楽しそうだからやってみようと。

ポジティブに捉えながらも、本気で取り組んでいくことが大切だと、メッセージを変えていく必要を今は感じている。


蟹江憲史(かにえ・のりちか)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表

内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員、JALサステナビリティアドバイザー、日本政府SDGs推進円卓会議構成員などを務め、国内外でSDGsや環境問題を中心に多方面で活躍中。国連事務総長の任命を受けた独立科学者15人の1人として、Global Sustainable Development Report 2023 (GSDR 2023)の執筆を行った。専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システム・ガバナンス。SDGs研究の第一人者であり、研究と実践の両立を図っている。主な著書に『SDGs(持続可能な開発目標)』(中央公論新社、2020)など。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国はさらなる不動産対策が必要、景気刺激策の余地あ

ビジネス

IMF専務理事、気候変動対応の意義強調 米財務長官

ビジネス

インテル、第2四半期売上高見通し予想に届かず 関税

ビジネス

加藤財務相、「為替水準の目標」話題にならず 米財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中