「役員予定」だった娘婿は生まれて4日の息子と引き離され離縁のうえ会社を解雇 超名門企業の創業家「男児を世継ぎに」という時代錯誤な執着
判決に耳を疑い、悲鳴にも似た叫び声をあげた
前者の訴訟は今年2月に敗訴した。東京地裁判決では「次女は中埜家の家風や価値観を大事にする考えを持ち、子が生まれた場合は両親と養子縁組させる可能性があると、婚姻前から大輔さんに説明していた」と指摘。次女は離婚する意思があったとして「前会長夫妻が強要する必要はなかった」と判断した。大輔氏はその後控訴したが、11月の控訴審でも敗訴している。
そのため後者の判決に望みを託していたが、冒頭で触れた通り完全敗訴だった。
法廷内にどよめきが流れたのには理由がある。
大輔氏がロンドンで妻子との別居を命じられたあと突如関西の配送センターに配転され、それが不当であるとする仮処分の申し立てが認められたことはすでに触れた。
今回敗訴した訴訟は、この仮処分決定を受けてのいわば本訴であるため、当然、仮処分の認定に沿った判断が下されると大輔氏自身も支援者らも信じていた。だからこそ、判決に耳を疑った。「ええええーーーーーっ」。裁判官が退廷した直後に悲鳴にも似た叫び声をあげた大輔氏が改めて言う。
「片道切符で日本の配送センターに飛ばしてやる!」
「判決文を精査しましたが、あまりにも不当というより杜撰な審理に愕然とし、怒りを覚えました。日本の司法がまさかこの程度のいい加減なものとは......。僕の主張には、すべてに揺るぎない証拠があるのです。メール、会話を録音した音声データ、それに義父母らとミツカンの役員、顧問弁護士らが策謀を巡らしていた秘密協議の議事録などなど。それも、一部ではなく膨大なものです。
それらは証拠として採用もされているし、それにともなった証人尋問でもそれらの証拠は偽造などでもなく本物であると認定されています。にもかかわらず、判決文では、そうした証拠にもとづく僕の主張の事実整理すら行われておらず、証拠を無視し、あえて判断を避けているとしか思えない内容になっているのです」
例えば、大輔氏の長男が生まれた4日後に和英会長が養子縁組届書に署名を迫った際に怒声とともに浴びせた「この場でサインしなければお前を片道切符で日本の配送センターに飛ばしてやる!」との言葉は、後日、和英会長と美和副会長、それにミツカン役員が謀議した際の録音音声データが証拠採用され、裁判でも発言を認めていたにもかかわらず、判決では「許容範囲である」としてスルー。
被告人が証言していないことまで判断している
また、同謀議でミツカン顧問弁護士が、大輔氏への配転命令が法的に不自然にならないように注意すべきであるとか、離婚させるタイミングなどについても詳細に意見を述べているメモも証拠採用されているものの、判決ではこれについての言及は一切なく、完全スルー。
大輔氏の代理人弁護士のひとりである野崎智裕弁護士もこう憤る。
「これだけ具体的な証拠の数々があり、被告側の証人尋問でも認めている事実が少なくないのに、そうした証言内容についてはほとんど触れていないという異常な判決です。
逆に、和英会長の『片道切符で飛ばす』云々の発言については、本人尋問でも発言を認めているのに、判決文では『(大輔氏に)カツを入れようとして言った言葉である』などと、発言した本人はそんな証言などしていないのに、まるで被告側に忖度(そんたく)したかのような判断をしています。
加えて、大輔氏が"飛ばされた"先の配送センターは実は社内の異動ではなく別法人への出向であるから、労働基準法に照らしても本人への面接や説明が必須であるのに一切ないままの命令でした」