「理解できない人」を侮辱しない...「泣き寝入り」しない人たちを批判するのではなく、リスペクトを
──自分が賛成できない人に対してのリスペクトはポイントになりそうです。イギリスでのリスペクトのあり方に違いはありますか。
イギリスでは、わからないことをわからないなりに尊重しようとしたり、よくわからない人でもあの人はああいう人だとリスペクトを持って接していこうというところがあると思います。
私が保育士の資格をとったときには、どんな赤ちゃんでもリスペクトしなさいと教えられました。人間として生きる権利を持って生まれてきた人なんだからリスペクトしないといけない。子どもを子ども扱いしてはいけないということもよく言われました。対等な立場の、自分と同じ一人の人として、扱わなければいけないと。
日本では所有にこだわっている人が多いような印象を受けます。この本でも、史奈子は所有からなかなか逃れられません。人が持っているものを勝手に直して住んだりしちゃいけないでしょ、といったことにいつまでもこだわっています。
物質的なものだけではなく、家父長制も所有の意識に基づいている。女性や子供は男性が所有するものであり、だからこそ食べさせなくてはいけないという、トップダウン的な文化がすごく強い。所有しているからこそ自分が上だと捉えているところがあると思うんです。
日本はとにかくそういうトップダウンの力が強すぎて沈んでいて、ボトムアップで下から上に向かう力がない感じがします。子どもに関して言えば、読み聞かせひとつとっても、日本では体育座りをさせて、まず読んで聞かせてから、最後に感想を言わせますよね。イギリスでは基本の姿勢はあぐら。読み聞かせの途中での子どもの発言も歓迎しますし、会話が盛り上がれば最後まで読めなくてもいい。相手を自分と同じように生きている対等な存在として、声をあげさせるというのもリスペクトですよね。こういう文化がイギリスにあるから、声をあげることに抵抗感がなく、そうする人が多いのではないでしょうか。
これは、泣き寝入りしなかった人たちの物語
──Focus E15 の活動は今も続いているそうですが、占拠事件から時間が経った今ではロンドンの住宅事情や活動に変化はありましたか。
日本と同じように、ロンドンは今、物価高で問題になっています。今月頭(2023年8月)に出てたBBCのニュースでは、ロンドンでは50人に1人がホームレスで緊急宿泊施設に住んでいると。50人に1人ってすごい数字ですよね。