「横暴な区長」を謝罪に追い込んだ「生活保護」シングルマザーたち...英国で実際に起きた事件を知っていますか?
私もこの事件にはとても勇気をもらいました。社会運動というと、大学の研究者や知識人が中心になることが多くて、地べたの人が立ち上がった運動ってなかなかないですよね。どこかの政党に支援されるのでもなく、当事者が自分たちで立ち上がって、自分たちで空き家になった公営住宅を占拠して、公営住宅の持ち主である区と争って、最終的には区長の謝罪文が全国紙に載ったんです。生活保護をもらいながら子どもを育てているシングルマザーは、イギリスでは偏見を持たれている、弱い立場の人たちです。そういう人たちがなにくそって立ち上がって、区長を謝罪させたなんて、痛快ですよね。久しぶりに小気味いい事件があったなと思って。こんなことがイギリスでは現実に起きたんだよということを日本の人たちにも伝えたいなと思いました。
──たしかに本物の事件の展開自体がドラマのようです。
そうですね。今回の小説では登場するキャラクターは私の創作ですが、このグループのやったことはほぼ実話です。2階建てのバスを借り切って歌いながら市長に会いにいったり、秘書が出てきて署名を受け取ってくれたり、区長にとても冷たくされたり、労働党のファミリーデーで演説していたら区長に激怒されて出て行けと言われたというのも、全部本当にあったことをそのまま書いています。こういうことが現実に起きたということがまずすごいし、シングルマザーたちを市民が支援したというのもすごいですよね。占拠時にたくさんの物資が支援で集まったというのも、水回りの修繕のワークショップが開かれたというのも実際にあったことです。日本だとちょっと考えられない話ですよね。
──シングルマザーたちにもモデルがいるように感じていたのですが、創作なのですね。
運動に関わっていた女性たち自身がどういう経緯でホームレスになったかを明かしたことはありません。ただ、この本での表紙になっているリーダー格の女性は保育士として働いていたとは言っていたのと、こんな運動なんて全然やったことはなかったし、気が弱くて自分の思ったことを言えない性格だったのが、運動を通して変わったという話もしていたので、参考にしている部分もあります。