最新記事
自動車

混迷のEV充電規格戦争に衝撃 フォードとの提携でテスラ方式が北米の標準になるか?

2023年6月9日(金)11時42分
ロイター
テスラの充電設備

米電気自動車(EV)販売1位、2位のテスラとフォード・モーターが充電設備を巡り手を結んだことで、業界に動揺が広がっている。写真はテスラの充電設備。上海で2021年3月撮影(2023年 ロイター/Aly Song)

米電気自動車(EV)販売1位、2位のテスラとフォード・モーターが充電設備を巡り手を結んだことで、業界に動揺が広がっている。米国のEV充電規格を巡る不透明感が意識され、苦戦しているEV充電設備スタートアップ企業の命運に暗雲が垂れ込めている。

フォードは5月、北米に1万2000カ所以上あるテスラの急速充電設備「スーパーチャージャー」を、2024年からフォード車のオーナーも利用できるようにすると発表した。

業界幹部や投資家、バンカー、コンサルタントらによると、これによって競合他社とバイデン米政権は、両社と足並みをそろえるか、もしくは対抗する充電技術への投資を強化するかという難しい選択をつきつけられた。

SS&C・ALPSアドバイザーズの主席ETFストラテジスト、ポール・バイオッキ氏は「テスラがこの分野で先頭を走り、フォードがそれに乗ったことで、他の技術に投資してきた企業は方向転換が必要になるだろう。これはコストが高くつく問題だ」と語った。

SS&Cはチャージポイント・ホールディングスやEVゴー、ブリンク・チャージングなど、テスラとは異なる充電設備を手がける企業に投資している。

フォードとの合意は、他社よりも普及し信頼感もあるテスラの充電技術「NACS」にとって追い風になる。一方で、これに対抗する「CCS」技術を採用する中小企業は打撃を受けた。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、米国でEV販売台数第2位のフォードとの合意により、自社技術が北米標準となることを期待している。

ライバル社の多くは顧客サービスで遅れを取り、資金力も乏しい中で、テスラの充電設備網にも対応できるよう自社ネットワークを改良する必要に迫られる。

バイデン政権はコメント要請に答えなかった。ただブティジェッジ運輸長官はフォードとテスラの合意発表後にCNBCで、「どの規格が優勢になるかに関し、(政権が)勝者と敗者を決めることはない」と発言。最終的には業界が1つのシステムに収れんしていくとの見通しを示しつつ、テスラが開発したアダプターにより、当面は相互乗り入れが可能になると語った。

世界的なCCS推進団体であるCharlnは、テスラとフォードのような合意は「業界に不透明感をもたらし、投資の障害になる」との懸念を示した。

米政府は過去に、企業にCCSの採用を促す措置に75億ドルの連邦予算を付けている。気候変動対策として、2030年までに新車販売の半分をEVとする政策の一環だ。

試写会
米アカデミー賞候補作『教皇選挙』一般試写会 30組60名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中