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混迷のEV充電規格戦争に衝撃 フォードとの提携でテスラ方式が北米の標準になるか?

2023年6月9日(金)11時42分

CCS充電インフラの不備は、EV普及の阻害要因となってきた。CCSは非効率で、時には動かないこともあるとの苦情が多いため、充電設備が見つからず道路で立ち往生する事態を恐れてEV購入に二の足を踏む人々もいる。

しかし充電網の設置と維持には多額の資金投入が必要だ。米国では昨年の新車販売に占めるEVの割合がまだ6%にとどまっており、充電設備ビジネスで稼ぐのは難しいと業界関係者らは言う。大半の自動車メーカーは独自の充電網を設けていない。

淘汰が加速へ

テスラの充電技術を業界標準として採用する企業が増えるなら、そうした金銭的なプレッシャーは増す一方かもしれない。BPが2021年末に充電設備のアンプライ・パワーを、シェルが今年ボルタを買収したような淘汰が進む可能性がある。

ラザードのバンカー、モヒト・コーリ氏は「既にこの業界では一部に統合の動きが見られ、今後は加速する一方だろう」と語った。

これまでのところはバイデン政権の後押しにより、ドイツのフォルクスワーゲン、BMWや米ゼネラル・モーターズ(GE)などのメーカーがCCSのコネクターを採用してきた。テスラは欧州で、規制当局からの圧力によってCCS技術を採用。米国では補助金の受給資格を得られる可能性があるため、自社充電網の一部を徐々にCCS技術採用車に開放している。

もっとも、業界関係者らによると、テスラ以外の充電企業はソフトウエア、ハードウエアともに故障が多いため、テスラの規格へのアクセスは拡大し続けるかもしれない。

フォードは今回の合意に基づき、テスラのアダプターを顧客に配布し、2025年以降に販売するEVにはNACS技術を搭載する。このアダプターを他の自動車メーカーの顧客も入手できるようになるかどうかは不明だ。

テスラの技術を採用する計画を立てている企業は他にもある。ただ業界関係者によると、国の規格が決まっていないため厄介な状態が続きかねない。

コンシューマー・リポーツの上席政策アナリスト、クリス・ハルト氏は「予見可能な将来にわたり、2つの充電規格が並存する状態が続いてしまいそうだ」と話した。

EV充電企業、フリーワイヤのアーカディー・ソシノフCEOは、フォードとテスラの合意発表により「あと10年間かそれ以上、規格戦争が続きそうだ」と語った。

(Abhirup Roy記者、 Hyunjoo Jin記者、 Isla Binnie記者)


[ロイター]


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