最新記事

SDGs

一歩進んだ環境対策 宅配ピザの紙箱を削減するスイス発のニュービジネス

2023年3月22日(水)20時25分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

リサークル・ボックス・ピザ

リサークル・ボックス・ピザの容器は1箱1400円程度の保証金がかかる。

注文時、箱に「高い保証金」が効果的

「リサークル・ボックス・ピザ」を循環させるには、箱を店に返却してもらわなくてはならない。客の協力を得るため、リサークル社では、客がピザを注文する時に箱のデポジットとして1箱10フラン(約1400円)を課金する方式にした。

スイスでは、宅配・テイクアウトのピザは、1枚20フラン前後だ。デポジットがピザの約半額上乗せさせられるというのはかなり高いと思うが、「デポジットは高く設定しないと効果がありません。安いデポジットだと、みんな、箱の返却を忘れてしまって結局サステナブルではなくなってしまいますから」とモラートさんは筆者に説明した。「リサークル・ボックス・ピザ」は返却期限がない。数カ月後でも1年後でも店に返却すれば、10フランは返してもらえる。

現在、「リサークル・ボックス・ピザ」を利用するレストランや宅配ピザ店は約60店になった。この箱を販売し始めて以来、増え続けている。とはいえ、まだ大多数のピザの箱は紙製だから、リサイクル事業としては小さな一歩だ。

「セールスはもちろん、マーケティングに力を入れ、自治体にも働きかけています。リサイクルパッケージを使うのは、意識と行動の変化です。慣れたことを変えるには、やはり時間はかかりますね」(モラートさん)

「リサークル・ボックス・ピザ」をもっと使ってもらうため、最近、新しい方法のパイロットプロジェクトを始めた。返金されるとわかっていても、高いデポジットを払いたくない人もいる。そこで、ピザ注文の時に「箱を7日間借りる(デポジットなし)」という選択ができるようにした。この場合は7日以内に店に返却すればいいが、期限を過ぎると10フラン課金される。返却すれば、10フランは戻ってくる。

今春、ヨーロッパ諸国で展開

ドイツでも、独自のピザ用リユース容器を広めている起業家たちはいるが、スイスではリサークル社がパイオニアだ。同社はヨーロッパ諸国への進出を始めた。他国での「リサークル・ボックス・ピザ」発売は5月から。

モラートさんは、スイス以外での展開については念頭になかったと言う。パッケージを循環して使うビジネスモデルは他国でも適用できると思っていたが、起業した当初は、リサイクルパッケージを使おうという意識がヨーロッパ社会には浸透していなかったと振り返る。「リサークル・ボックス・ピザは社会に必要で、市民権を得ると信じています」とのモラートさんの言葉通り、サステナブルな暮らしに向かう時代の今、この箱が広く支持される日がいつか来る気がする。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

韓国、外資銀の国内為替取引を後押し 外国人投資家の

ビジネス

午前のドルは153円後半で軟調、ポジション調整の売

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米CPI後の株高好感 円高で

ビジネス

金融分野のAI利用、規制が必要となる可能性=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中