究極の遅読は「写経」──人生を豊かにする「遅読」4つのテクニックとは?
遅読で味わい尽くすための4つの作法
速読だけでなく、遅読にも技術がいる。作法がある。
(1)文章のリズム、メロディー、グルーヴに乗る──世界に染まる
社会科学系の本でも本質は同じなのだが、ここでは小説を例にとる。
小説を読むという行為は、かなりヘンなことだということは、自覚したほうがいい。赤の他人が書いた、ありもしないフィクション、「お話」を読むのである。
お話をねだるのは、寝る前、布団に入り、親に絵本を読んでもらう、就学前の子供で卒業すべき営為だ。
いい年をして、われわれがお話を欲するのはなぜか。それは、文章そのものを味わうからだ。文章に内包された、リズムを楽しむからだ。文章が奏でるメロディーを口ずさむためだ。文章が組み合わさって構築される物語、その物語がもつグルーヴの大波に乗るためだ。
グルーヴの大波に乗せられて、つまり世界観を信じ込まされて、水平線を越え、どこかまったく知らない島に漂着する。小舟から降り立つ。周りを眺める。世界が、風景が、一変している。
その〈経験〉こそ、小説を読む意味だ。文章を読んで、まったく別の地表に、立った。自分にしか分からない、そのたしかな足裏の感触が、この忙しい時代にわざわざ小説などを読む意味だ。
文章そのもののリズムを味わう。メロディーを口ずさむ。グルーヴに乗せられる。そのつもりで、味読する。しかし、それでも乗れなかったら......。それはあなたの舟ではなかったのだ。読むのをやめよう。新しい舟はいくらもある。