もはや企業に「中立」はない──懸念高まる中国依存、多国籍企業に迫る「苦渋の選択」
The End of Corporate Neutrality
中国から外国メーカーの製造拠点が流出している(写真は2022年に上海で開かれた国際輸入博覧会の様子) ZHANG WUJUNーVCG/GETTY IMAGES
<欧米圏と反欧米圏という東西のブロック化が進むなか、多国籍企業は難しい選択を迫られている>
アップルが一部製品の生産拠点をベトナムとインドに移しつつある──。
2022年後半にそんなニュースが飛び込んできたとき、世界経済の新たなトレンドが明確になった。企業が地政学リスクを避けるために、製造拠点やサプライチェーンを、友好的な国に移転する「フレンド・ショアリング」だ。
世界は今、欧米主導の西側ブロックと、中国が(今のところ)主導する東側ブロックに分断されつつある。
冷戦の終焉以降、地政学をほぼ気にせずに事業活動のグローバル化を進めてきた企業にとって、これは一大事だ。もはや企業にとって、政治的な立場を取らない中立戦略は勝利をもたらさないし、そんな戦略を取ること自体が不可能になっている。
アップルはこれまで、生産拠点を中国に維持することに強くこだわってきた。河南省鄭州市はiPhoneシティーとも呼ばれ、アップルの製品の85%が製造されていた時期もあった。
だが、実のところ、しばらく前から多くの多国籍企業が、製造拠点や市場として中国に過剰依存している状態に不安を覚えるようになっていた。
国際的なコンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソン(WTW)が22年3月に発表した政治リスクリポートによると、アジア太平洋地域(つまりは中国)の政治リスクを懸念していると答えた企業エグゼクティブは、懸念していないと答えたエグゼクティブの20倍に達した。2年弱前は2倍だったから飛躍的な危機感の高まりだ。
在中国EU商工会議所が22年夏に発表した調査では、EU企業の23%が中国以外の国への事業移転を計画中だった。「現在の中国で唯一はっきりしているのは、将来の予測がつかないことだ。これはビジネス環境としては好ましくない」と同会議所のベッティーナ・シェーンベハンツィン副会頭は語る。
こうしてフレンド・ショアリングが進んできた。必ずしも中国から完全に撤退するわけではない。ただし、企業は中国に依存することの危険性に気付き始めた。この3年の中国国内の混乱と度重なる政策変更は、その安定性に大きな疑問を生じさせている。
それに欧米諸国を敵と見なす国でビジネスを行うことは企業イメージを悪化させ、政治的コストを高くする。何も中国だけではない。今や世界は、2つの地政学的ブロックに分断されつつある。
企業が報復措置の矢面に
WTWとイギリスの調査会社オックスフォード・アナリティカは、1月末に発表予定の共同報告書で、一般に政治的リスクが高いと見なされるが、大きな市場を持つために、多くの多国籍企業が事業活動をしたがる61カ国・地域の評価を行っている。