最新記事

地政学

もはや企業に「中立」はない──懸念高まる中国依存、多国籍企業に迫る「苦渋の選択」

The End of Corporate Neutrality

2023年1月10日(火)13時50分
エリザベス・ブラウ(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)

230117p33_CGR_02v2.jpg

中国は欧米諸国と対峙する経済圏の中心国(写真は山東省にある煙台港) CFOTOーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

それによると、61カ国中25カ国が欧米諸国寄りだが、18カ国は多くの重要な争点で反欧米的な姿勢を取っている。

この18カ国には、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)のような富裕国もあれば、インドやパキスタン、ナイジェリアのような人口大国、そしてミャンマーやカンボジアのように小規模で裕福ではないが、大手メーカーに人気の進出先が含まれる。

アメリカとEU主導の西側ブロックも、中国主導の東側ブロックも所属国間のつながりは非常に緩い(中国は正式な同盟関係を結んでいる国がないからなおさらだ)。

冷戦時代と同じように、非同盟諸国もある。WTWとオックスフォード・アナリティカが評価した61カ国のうち、残りの18カ国が中立的な立場を取ろうとしている。

「地政学的なブロックが、必ずしもその国の貿易関係を決定づけるわけではない」と、WTWのサム・ウィルキン政治リスク分析部長は語る。

「東側諸国と強力な貿易関係があるが、地政学的には西側と強い結び付きを持つ国は多い。ただ、地政学的なブロックが、その国の投資リスクに与える影響は強まっている」

これは企業にとって、根本的なリスクだ。

冷戦の終焉以降、企業は進出先の国内要因だけに基づき、事実上世界のどこにでも拠点を置けた。一方、グローバル化した経済に参加する国々も、基本的にどんな国とでも通商関係を結べた。例えばベトナムは、アメリカとも中国とも日本とも貿易をしている。

中国の多国籍企業は、自分たちの運命が政府の気まぐれに左右され得ることに、ずっと前から気付いていたが、欧米の企業は違う。自国政府は比較的安定していて、企業が中国やロシア、さらには東側ブロックの新興国に進出することに待ったをかけることも基本的にはなかった。

だが、東側ブロックに進出した企業は今、地政学を理由とするトラブルに遭遇しないように、細心の注意を払う必要がある。進出先の国が何らかの理由で本国政府に報復をしようと決めた場合、企業が矢面に立たされるリスクが高まっているのだ。

この政策のパイオニアとなったのが中国だ。中国政府はスウェーデンやリトアニア、オーストラリアの政府による「不当行為」の報復として、これらの国の企業や業界に厳しい懲罰措置を科してきた。

例えばオーストラリア政府が、新型コロナウイルスの発生源について独立調査の実施を国際社会に呼びかけたところ、中国政府はオーストラリア産ワインに法外な関税を課すことを決定。このためオーストラリアのワイン業界は、最大の市場である中国への輸出を96%失った。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 5
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中