もはや企業に「中立」はない──懸念高まる中国依存、多国籍企業に迫る「苦渋の選択」
The End of Corporate Neutrality
それによると、61カ国中25カ国が欧米諸国寄りだが、18カ国は多くの重要な争点で反欧米的な姿勢を取っている。
この18カ国には、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)のような富裕国もあれば、インドやパキスタン、ナイジェリアのような人口大国、そしてミャンマーやカンボジアのように小規模で裕福ではないが、大手メーカーに人気の進出先が含まれる。
アメリカとEU主導の西側ブロックも、中国主導の東側ブロックも所属国間のつながりは非常に緩い(中国は正式な同盟関係を結んでいる国がないからなおさらだ)。
冷戦時代と同じように、非同盟諸国もある。WTWとオックスフォード・アナリティカが評価した61カ国のうち、残りの18カ国が中立的な立場を取ろうとしている。
「地政学的なブロックが、必ずしもその国の貿易関係を決定づけるわけではない」と、WTWのサム・ウィルキン政治リスク分析部長は語る。
「東側諸国と強力な貿易関係があるが、地政学的には西側と強い結び付きを持つ国は多い。ただ、地政学的なブロックが、その国の投資リスクに与える影響は強まっている」
これは企業にとって、根本的なリスクだ。
冷戦の終焉以降、企業は進出先の国内要因だけに基づき、事実上世界のどこにでも拠点を置けた。一方、グローバル化した経済に参加する国々も、基本的にどんな国とでも通商関係を結べた。例えばベトナムは、アメリカとも中国とも日本とも貿易をしている。
中国の多国籍企業は、自分たちの運命が政府の気まぐれに左右され得ることに、ずっと前から気付いていたが、欧米の企業は違う。自国政府は比較的安定していて、企業が中国やロシア、さらには東側ブロックの新興国に進出することに待ったをかけることも基本的にはなかった。
だが、東側ブロックに進出した企業は今、地政学を理由とするトラブルに遭遇しないように、細心の注意を払う必要がある。進出先の国が何らかの理由で本国政府に報復をしようと決めた場合、企業が矢面に立たされるリスクが高まっているのだ。
この政策のパイオニアとなったのが中国だ。中国政府はスウェーデンやリトアニア、オーストラリアの政府による「不当行為」の報復として、これらの国の企業や業界に厳しい懲罰措置を科してきた。
例えばオーストラリア政府が、新型コロナウイルスの発生源について独立調査の実施を国際社会に呼びかけたところ、中国政府はオーストラリア産ワインに法外な関税を課すことを決定。このためオーストラリアのワイン業界は、最大の市場である中国への輸出を96%失った。