タダ同然の魚からお金を生み出す...... 24歳シングルマザー社長が日本の漁業に奇跡を起こした
坪内知佳さんと萩大島船団丸船団長の長岡秀洋さん。彼との出会いが坪内さんの人生を変えた。写真=畑谷友幸
山口県に本社を置く「GHIBLI」は、「船団丸」ブランドで漁獲した魚を消費者に直接届ける自家出荷ビジネスを展開し、急成長。苦境にあえぐ漁業界で大きな注目を浴びている。日本でこれまで誰もできなかったことを実現したのが、24歳で事業の代表に就任した坪内知佳さんだ。シングルマザーで、「家なし、金なし、職なし」から大逆転。その歩みが日本テレビ系列でドラマ化された。原作書籍『ファーストペンギン』で明かされた、偶然の出会いと情熱が生んだ「奇跡の物語」とは──。
24歳シングルマザーの「まさか」の挑戦
私は、山口県に本社を置く、魚と農産品の販売を主なビジネスにする株式会社「GHIBLI(ギブリ)」を経営し、後述する「船団丸(せんだんまる)」という事業を展開している。
しかし、もともとは漁業とまったく無縁の存在だった。
名古屋外国語大学を中退し、山口県出身の男性と結婚、出産したものの、結婚生活はあっけなく破綻(はたん)した。24歳でシングルマザーになった私は、様々な偶然が重なり、萩大島の漁師たちと関わり、気が付けば彼らと一緒に日本の漁業の常識を打ち破ることになった。
そんな私を「ファーストペンギン」に喩(たと)えてくれる人もいる。
「ファーストペンギン」とは、集団で行動するペンギンの群れのなかから、最初に飛び出す一羽のこと。これが転じて、リスクを恐れず初めてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主を「ファーストペンギン」と呼ぶようになったらしい。
漁業と小さな島のために奮闘
もっとも、私自身は「ファーストペンギン」に喩えられることを光栄に感じつつも、戸惑ってもいる。
振り返れば、どこにでもいる一人のシングルマザーが、大勢の人たちに助けられながら日本の漁業と小さな島のために奮闘してきただけなのだ。
まだまだやりたいことも、やらなければいけないことも山積みだ。周囲の皆さんから「よく、ここまでやり遂げましたね」とお褒めの言葉をいただくこともあるが、正直なところ、「そんなふうに認めていただけるほど、立派なことはできていない」と思う気持ちがある。
まだまだ道半ばなのだ。
漁師から消費者個人へ直接届ける
日本では、多くの魚や農産物は漁協や農協などの出荷団体に集まり、仲買人(仲卸業者)と呼ばれる中間業者を経由して、全国の小売店の店先に並び、消費者に届くシステムになっていた。
しかし、GHIBLIでは獲れた魚や野菜を漁獲、収獲から半日以内に生産者自身の手で箱詰めや加工処理をし、「船団丸」ブランドとして直接、全国の消費者に届けている。