タダ同然の魚からお金を生み出す...... 24歳シングルマザー社長が日本の漁業に奇跡を起こした

2022年10月8日(土)11時00分
坪内知佳(GHIBLI代表) *PRESIDENT Onlineからの転載

坪内知佳さんと漁師たち

萩大島船団丸の漁師たちと坪内知佳さん。船団丸事業は全国に拡大中 写真=畑谷友幸

2012年に「萩大島(はぎおおしま)船団丸」として事業をスタートした当初は、飲食店との取引がメインだった。2014年にGHIBLIとして法人化させてからは個人顧客との取引の拡大に努めてきた。

おかげでコロナ禍による飲食店の休業の影響を最小限に食い止めることができた。むしろ、多くの市場が業務を停止したことで、小売店に並ぶ魚の量が減ったぶん、ECサイトを通じた個人からの注文は増えた。

山口県の萩からスタートしたこの「船団丸」ビジネスは、今では全国12カ所の漁港に広がり、「SENDANMARU」のブランド名で展開している。同じような理念で農産物版「まるごと船団丸」もスタートさせることができた。

コロナが来ることなど、もちろん予想していなかったが、結果的に、目指していた場所に向かう速度が速まることになった。

それもこれも、あの偶然の出会いが始まりだった。

3.01平方キロメートルの土地に613人、271世帯が生活

「ここいらの海は魚が獲れんくなっとる。漁業がいつまで続けられるかわからん。魚を獲るだけやなくて、なにかやりたいと思っている。なにかしたいのやが、どうしたらいいかわからんのよ」

後に「萩大島船団丸」事業を一緒に立ち上げることになる、「松原水産」という船団の漁労長・長岡秀洋と知り合ってしばらくして、相談を持ち掛けられた。2010年1月のことだった。

長岡たちが暮らす萩大島は、3.01平方キロメートルの土地に613人、271世帯が生活している。住民の大半は、何代にもわたって漁業で生活を営んできた。

萩を含む山口県の周辺海域では、30年ほど前に比べ漁獲量が大幅に減っていた。1980年代後半までは1年間に24万トンも獲れていた魚が、3万トン程度にまで落ち込んでいる。漁獲量が減れば、そこで働く人の数も減る。まさに壊滅寸前と言っていい。

獲れる量が減っても需要があれば、需要と供給の関係で価格が上昇するからなんとかなる。ところが消費者の魚離れが進み、価格も下落が続いている。その一方で、燃料などの価格は高騰が止まらない。仕事にかかる時間と労力は昔と変わらないのに、儲けだけがどんどん減っていく。

「魚を獲るだけじゃ、食っていけなくなる」

「このまま漁で魚を獲るだけじゃ、食っていけなくなるのは目に見えとる。あんた、モノを考えるのが得意と言うとったろ。わしらがどうすればいいか、考えてくれんか」

長岡は、以前、これから企画やコンサルタントの仕事がしたいと言った私の言葉を覚えていたらしい。知り合ったばかりで、なんの実績もない私に相談するくらいだから藁(わら)にもすがる思いだったのか。

仕事をいただけるのは願ったり叶ったりである。問題は、私に漁業についての知識がまったくないことだ。

漁師たちの生活はもちろん、島の漁業の未来もかかっている。安易に引き受けてしまっていいものか。なにしろ相手は荒っぽい漁師たちだ。満足な結果を出せないとなにを言われるかわからない。常識的には断るのが正解だろう。

だが、そのときの私には不思議と断るという選択肢が思い浮かばなかった。

「わかりました。なにができるかわかりませんが、考えてみます」

地元の漁業を学ぶことからスタート

なにができるか皆目見当もつかないが、私も何か途方もないことが始まるのではないか、そんな予感にウキウキした気持ちに包まれていた。

とはいえ、漁業どころか、魚そのものについての知識も皆無に等しい状態で新規事業の提案などできるはずがない。

そこでさっそく、実際に萩大島に渡って、長岡たち島の漁師が、どんな漁をしているのかを見たり、教えてもらったりすることから取り掛かることにした。

すると、いろいろなことがわかってきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中