最新記事

世界経済

「なぜTPPではなく新しい経済枠組み?」 バイデン提案への岸田首相の本音

2022年5月20日(金)12時09分
バイデン米大統領

バイデン米大統領(写真)が5月22日からの訪日中に打ち出す新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について、日本政府は参加を表明する方向で調整しているものの、経済的な実利は少ないとの冷めた見方が政府関係者の間から聞かれる。19日、メリーランド州でアジア行きのエアフォース・ワンに乗り込む同大統領(2022年 ロイター/Jonathan Ernst)

バイデン米大統領が22日からの訪日中に打ち出す新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について、日本政府は参加を表明する方向で調整しているものの、経済的な実利は少ないとの冷めた見方が政府関係者の間から聞かれる。米国の環太平洋経済連携協定(TPP)復帰が見込めない中、中国包囲網の抜け穴を埋めるための次善の策だと関係者は口を揃える。

IPEFはバイデン大統領が昨年10月の東アジアサミットで表明した経済圏構想で、シンガポールや韓国などが参加検討を表明している。日本も参加する方向で調整を進めており、松野博一官房長官は18日、米国のインド太平洋地域への関与を示すものとして歓迎の意を示した。

貿易や供給網(サプライチェーン)、脱炭素などいくつかのテーマを設定し、どこに参加するかを自由に選べる形になる見込みで、米政府は多くの国が手を挙げられるようハードルを低く設定している。しかし、TPPと異なり関税引き下げによる市場開放を打ち出しておらず、巨大な米国市場にアクセスできる機会が増えるかどうか分からない経済枠組みに参加するメリットを感じる国は多くない。

米・ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会談のためにワシントンを訪れたベトナムのファム・ミン・チン首相は11日、「関心があるが詳細を知る必要がある」と述べた。インドネシアなども参加を表明していない。

日本の経済産業省の関係者は「米国はアジアの実情について不勉強。アジア各国が乗りやすい仕組みを作らないと、上から目線で新たな枠組みを構築しても参加しない」と解説する。

TPP脱退で恨み節

表向きは支持する姿勢を表明した日本の政府内にも、米国の通商政策が目まぐるしく変わる状況を冷淡な目で見る向きがある。日本は対中包囲網の意味合いがあった米国主導のTPPに乗ったものの、自国第一主義を強めたトランプ政権が途中で離脱を決め、はしごを外された苦い経験がある。

岸田文雄首相に近い政府関係者は、米国主導のTPP交渉に「日本側は多大な労力を割いてきたにも関わらず米国が勝手に脱退した」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中