最新記事

世界経済

「なぜTPPではなく新しい経済枠組み?」 バイデン提案への岸田首相の本音

2022年5月20日(金)12時09分

バイデン大統領は12日、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳らとの特別会議でて総額1.5億ドル(約193億円)の支援を表明した。しかし「同時期に米国はウクライナに約400億ドル(約5.1兆円)の支援を表明しており、米国にとってアジアの優先順位は高くないとの見方を助長する可能性がある」と、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームス・ブラウン上級准教授は指摘する。

米国のアジアへのコミットを強めるため

それでも日本がIPEFに参加するのは、中国が台頭する中で米国のアジアへの関与を一段と強めるためだと、複数の政府関係者は言う。

日米安全保障条約や日米豪印4カ国の枠組みクアッドなど、安全保障面で中国をけん制する地域協力は複数あるが、経済面は米国がTPPが参加しなかったことで網に穴が空いた状態にある。本来は米国のTPP復帰という形でけん制したいところだが、バイデン政権に代わっても保護主義が続く中で実現は難しいと、日本の政府関係者はみている。

「トランプ前大統領以来の保護主義的な通商政策に対し、民主・共和両党の穏健派から懐疑的な声がある」と、外務省関係者は言う。「日本は引き続き米国にTPP復帰を求めるという立場だが、それまでのつなぎという位置づけでIPEFを歓迎する」と語る。

松野官房長官は18日の会見で、「IPEFを通じても協力を推進し、米国を含む形での地域の望ましい経済秩序の構築に向け、日米で緊密に連携して取り組んでいく」と述べた。

バイデン大統領が訪日するのは、昨年1月の就任後初めて。20日から2日間韓国を訪れ、就任間もないユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領と会談した後、日本に到着する。23日に岸田文雄首相と会談するほか、24日に日米豪印首脳会合に参加する。

「米国との安保・経済関係は重要なので、バイデン訪日は日米の協力関係が改めて評価されるという意味でプラスだ」と、元自民党幹部職員で政治評論家の田村重信氏は話す。


竹本能文 Elaine Lies

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援に感動の声
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中