最新記事

株式市場

投資家置き去りの東証プライム市場──真の「プライム企業」とは

2022年4月20日(水)11時38分
井出 真吾(ニッセイ基礎研究所)

これらの企業が「株主価値を毀損している」ことは、企業が投資家との対話を通じて持続的に企業価値を高めていくための課題を分析・提言した経済産業省のプロジェクト(伊藤邦雄座長)の最終報告書、通称「伊藤レポート」が指摘しているほか、学術的にも「価値破壊的」であることが一般的な解釈だ。また、近年その重要性の指摘が増えている非財務資本(人的資本、環境への配慮など)が脆弱なため市場の評価が低い可能性もある。いずれも「最上位市場に相応しい」とは言い難い。

一方、社外取締役比率などで銘柄数をさらに絞り込んだ4)のリターンは最も低いが、リスクも最も低く評価は微妙だ。全期間のリスク・リターン効率が0.83と1)~4)のうち最低なので「長期的には魅力度が最も低い」といえるが、短期的なリスクの低さは注目に値する。

たとえば、チャイナショックが起きた2015年は1)よりもリターンが4.4%高く、米中貿易摩擦が激化した2018年は5.3%高い。ESG投資に関する先行研究が示唆するように、株価下落局面における下値抵抗力が優れているのかもしれない。

経過措置適用銘柄等を除外した2)は1)との違いがほとんど無い。2)で除外された銘柄のほとんどは時価総額が小さいため、ポートフォリオ全体への影響が軽微だったのだろう。だからといって、経過措置をいつまでも適用するのは好ましくない。東証自身が当該企業に期待しているように企業価値向上に向けた取り組みを加速するためにも、経過措置の期限、未達の場合は厳格に運用することを早期に決めることが重要だろう。

最後に、ポートフォリオ3)における構成比が同1)の構成比よりも大きい銘柄(上位10社)を図表6に挙げた。当然だがPBRは全て1倍を超え、キーエンス、リクルートホールディングス、東京エレクトロンは特に高い。この3社に共通するのは過去10期平均ROEが10%を超えていることだ。資本を有効活用して効率的に稼ぐ仕組みができていることを株式市場は高く評価しているのだろう。他の銘柄も含めて、成長投資に積極的な企業や世界的なデジタル化の潮流に乗った企業が目立つ。

nissei20220418191406.jpg

1220ide.jpg[執筆者]
井出真吾(いでしんご)
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中