投資家置き去りの東証プライム市場──真の「プライム企業」とは
これらの企業が「株主価値を毀損している」ことは、企業が投資家との対話を通じて持続的に企業価値を高めていくための課題を分析・提言した経済産業省のプロジェクト(伊藤邦雄座長)の最終報告書、通称「伊藤レポート」が指摘しているほか、学術的にも「価値破壊的」であることが一般的な解釈だ。また、近年その重要性の指摘が増えている非財務資本(人的資本、環境への配慮など)が脆弱なため市場の評価が低い可能性もある。いずれも「最上位市場に相応しい」とは言い難い。
一方、社外取締役比率などで銘柄数をさらに絞り込んだ4)のリターンは最も低いが、リスクも最も低く評価は微妙だ。全期間のリスク・リターン効率が0.83と1)~4)のうち最低なので「長期的には魅力度が最も低い」といえるが、短期的なリスクの低さは注目に値する。
たとえば、チャイナショックが起きた2015年は1)よりもリターンが4.4%高く、米中貿易摩擦が激化した2018年は5.3%高い。ESG投資に関する先行研究が示唆するように、株価下落局面における下値抵抗力が優れているのかもしれない。
経過措置適用銘柄等を除外した2)は1)との違いがほとんど無い。2)で除外された銘柄のほとんどは時価総額が小さいため、ポートフォリオ全体への影響が軽微だったのだろう。だからといって、経過措置をいつまでも適用するのは好ましくない。東証自身が当該企業に期待しているように企業価値向上に向けた取り組みを加速するためにも、経過措置の期限、未達の場合は厳格に運用することを早期に決めることが重要だろう。
最後に、ポートフォリオ3)における構成比が同1)の構成比よりも大きい銘柄(上位10社)を図表6に挙げた。当然だがPBRは全て1倍を超え、キーエンス、リクルートホールディングス、東京エレクトロンは特に高い。この3社に共通するのは過去10期平均ROEが10%を超えていることだ。資本を有効活用して効率的に稼ぐ仕組みができていることを株式市場は高く評価しているのだろう。他の銘柄も含めて、成長投資に積極的な企業や世界的なデジタル化の潮流に乗った企業が目立つ。
[執筆者]
井出真吾(いでしんご)
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト
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