投資家置き去りの東証プライム市場──真の「プライム企業」とは
こうした投資家の意向はプライム市場の上場基準を検討する段階で既に明らかになっていた。2019年12月にQUICK社が実施した同様のアンケートでは、「プライム市場の銘柄数はどのくらいが妥当か」という問いに対して、投資家の87%が「500社程度以下」と答えていた(図表3)。それにもかかわらず、無期限の経過措置まで導入して1,837社のプライム市場上場を承認したことは、「投資家置き去り」に見える。
3――真のプライム市場に相応しい企業を探る
銘柄数を絞り込む効果を試算してみよう。絞り込み条件は図表4に示した通りだ。
1)プライム市場上場1,837銘柄を出発点とし
2)経過措置適用銘柄およびTOPIXの段階的ウェイト低減銘柄を除外した1,517銘柄
3)は市場の評価や企業の収益性を加味するため、直近のPBR(株価純資産倍率)が1倍未満の銘柄、実績ROE(株主資本利益率、10期平均)が直近の株主資本コストよりも低い銘柄を2)から除外した612銘柄だ。
さらに4)はコーポレートガバナンス・コードが求める社外取締役の割合(3分の1以上)を満たさない銘柄、投資家の売買しやすさを考慮するため売買代金回転率(図表4注参照)が0.5回未満の銘柄と最低投資金額(東証は50万円以下を推奨)が100万円超の銘柄を3)から除外した401銘柄だ。
図表4の絞り込み方法はごく簡易的で他の方法も無数に考えられるが、銘柄数としては3)4)が投資家のイメージに近い。
図表5に上記1)~4)の銘柄をそれぞれのポートフォリオに時価総額加重で組み入れた場合のバックテスト結果を示す。結果は一目瞭然で、PBRとROEで銘柄を絞り込んだ3)のパフォーマンが最も良好だ。1)のプライム市場銘柄と比べて3)のリターンは年率2.2%高いが、リスクは0.2%しか高くない。その結果、「リターン÷リスク」が唯一1.0を超えた(精確には1.0025)。リスクに対して最も効率よくリターンをもたらしたことを意味しており、投資家にとっての魅力度が1)~4)の中で最も高い。
この結果は、上場基準で「経営の質」を考慮すると投資対象としての株式市場の魅力度を高め、「海外から投資マネーを集める」という市場再編の目的のひとつを達成させる可能性を示唆している。いっそプライム市場の抜本改革が求められるが、スタートしたばかりで具合が悪ければ、さらに上位の少数精鋭市場を創設することも検討に値する。
というのも、PBRが1倍未満の企業は市場での株式評価額が自己資本よりも低いことに他ならず、一般に「経営として失格」とされる。スクリーニングしたデータを詳細に見ると、PBRが1倍未満の企業の約半数は実績ROEが株主資本コストを下回っている。つまり、株主が求める最低限のROEを達成できていない。