最新記事

株式市場

投資家置き去りの東証プライム市場──真の「プライム企業」とは

2022年4月20日(水)11時38分
井出 真吾(ニッセイ基礎研究所)

玉石混交のプライム市場には改革が必要だ(写真は2020年10月) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2022年4月11日付)からの転載です。

1――投資家も証券会社も期待していない

4月4日に東京証券取引所の新市場区分がスタートした。従来の4市場(1部、2部、ジャスダック、マザーズ)を、「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3つに再編したものだ。再編の背景には、2013年に東証と大阪証券取引所が株式市場を統合したなどの経緯もあり、「各市場区分のコンセプトが曖昧で、投資家の利便性が低い」などの課題意識があった。

鳴り物入りでスタートしたプライム市場だが、2月上旬に投資情報会社のQUICK社が実施したアンケートでは、「今回の市場再編をどう評価するか」との問いに対して、投資家(主に機関投資家)の64%が「投資家から見れば実質的に何も変わらない」と回答した(図表1)。

nissei20220418191401.jpg

また、「日本企業の中長期的な企業価値の向上と、世界から投資マネーを集めるという目的に有効だと思うか」との問いには、「あまり有効ではない」「まったく有効ではない」と回答した投資家が計70%にのぼり、証券会社も71%が同様に答えた(図表2)。海外マネーの流入で売買が活発になれば証券会社の収益機会も増えるが、そうした期待は低いようだ。

nissei20220418191402.jpg

2――投資家置き去りのプライム市場

投資家などの期待が低い理由は単純で、「プライム市場の銘柄数が多すぎる」ことだ。プライム市場の銘柄は原則としてTOPIX(東証株価指数)に採用されることもあり、投資家としては成長性や流動性(売買しやすさ)、資本効率などのクオリティが高い銘柄に絞り込んで欲しいと考えるのが当然だ。

だが、東証1部上場2,175銘柄の84%にあたる1,837銘柄がプライム市場に移行することとなった(2022年3月31日時点)。しかも、そのうち295銘柄は時価総額や流通株式比率などプライム市場の上場基準を満たしていない。基準未達でも「基準適合に向けた報告書」が受理されればプライム市場に移行できる「経過措置」が適用される。

企業にとって「東証1部上場」、「プライム市場上場」であることは、人材確保や取引先・顧客の信頼を得るのに重要でもあり、激変緩和措置は必要だろう。しかし、この経過措置には期限が設けられておらず、単なる「問題の先送り」にも見える。今回の市場再編が「看板の付け替えに過ぎない」などと揶揄される所以だ。

実は、先のアンケートでは「プライム市場は何社くらいが適当だと思われますか」という問いに対して、投資家の71%が「500社程度」(54%)または「300社程度」(17%)と回答している。一方、実際の銘柄数に近い「1,500社程度」「2,000社程度」との回答は計12%に過ぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中