投資家置き去りの東証プライム市場──真の「プライム企業」とは
玉石混交のプライム市場には改革が必要だ(写真は2020年10月) Kim Kyung-Hoon-REUTERS
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2022年4月11日付)からの転載です。
1――投資家も証券会社も期待していない
4月4日に東京証券取引所の新市場区分がスタートした。従来の4市場(1部、2部、ジャスダック、マザーズ)を、「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3つに再編したものだ。再編の背景には、2013年に東証と大阪証券取引所が株式市場を統合したなどの経緯もあり、「各市場区分のコンセプトが曖昧で、投資家の利便性が低い」などの課題意識があった。
鳴り物入りでスタートしたプライム市場だが、2月上旬に投資情報会社のQUICK社が実施したアンケートでは、「今回の市場再編をどう評価するか」との問いに対して、投資家(主に機関投資家)の64%が「投資家から見れば実質的に何も変わらない」と回答した(図表1)。
また、「日本企業の中長期的な企業価値の向上と、世界から投資マネーを集めるという目的に有効だと思うか」との問いには、「あまり有効ではない」「まったく有効ではない」と回答した投資家が計70%にのぼり、証券会社も71%が同様に答えた(図表2)。海外マネーの流入で売買が活発になれば証券会社の収益機会も増えるが、そうした期待は低いようだ。
2――投資家置き去りのプライム市場
投資家などの期待が低い理由は単純で、「プライム市場の銘柄数が多すぎる」ことだ。プライム市場の銘柄は原則としてTOPIX(東証株価指数)に採用されることもあり、投資家としては成長性や流動性(売買しやすさ)、資本効率などのクオリティが高い銘柄に絞り込んで欲しいと考えるのが当然だ。
だが、東証1部上場2,175銘柄の84%にあたる1,837銘柄がプライム市場に移行することとなった(2022年3月31日時点)。しかも、そのうち295銘柄は時価総額や流通株式比率などプライム市場の上場基準を満たしていない。基準未達でも「基準適合に向けた報告書」が受理されればプライム市場に移行できる「経過措置」が適用される。
企業にとって「東証1部上場」、「プライム市場上場」であることは、人材確保や取引先・顧客の信頼を得るのに重要でもあり、激変緩和措置は必要だろう。しかし、この経過措置には期限が設けられておらず、単なる「問題の先送り」にも見える。今回の市場再編が「看板の付け替えに過ぎない」などと揶揄される所以だ。
実は、先のアンケートでは「プライム市場は何社くらいが適当だと思われますか」という問いに対して、投資家の71%が「500社程度」(54%)または「300社程度」(17%)と回答している。一方、実際の銘柄数に近い「1,500社程度」「2,000社程度」との回答は計12%に過ぎない。