「課金したい」と思わせるブランドストーリーの肝は、「弱さ」の見せ方にあり
『BRAND STORYTELLING
ブランドストーリーのつくりかた』
ミリ・ロドリゲス 著
ローリングホフ 育未 翻訳
CCCメディアハウス
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
それだけでなく、聴覚、嗅覚、触覚、そして運動皮質も「むかしむかし(once upon a time)......」というフレーズを聞いた瞬間に活性化される。つまり、ストーリーをうまく伝えることができれば、オーディエンスの体中の感覚を目覚めさせ、ストーリーにのめり込ませられるということだ。まるでオーディエンス自身が、ストーリーの主人公やほかの登場人物であるかのように。
マーケターであれば、顧客が何かを買うときに下す判断は必ずしも理性的でないことを知っているだろう。感情的な決断がまずあり、それを理論で正当化しようとする。ストーリーテリングは、他のコミュニケーション方法と比べて、感情とコンテンツについての情報をつなぎ合わせることに長けているのだ。
さらに、オーディエンスの注意を引き付け続けられるのもストーリーテリングの強みである。 ストーリーはオキシトシンやコルチゾールなどの神経情報伝達物質を放出させ、身体を緊張させて受け手の集中力を高める。データや数字などのドライで退屈な情報を提示するときでも、ストーリーを使えば受け手を惹きつけることができる可能性が高くなる。
社会的な生物である私たちにとって、ストーリーは認知的コミュニケーションの道具である。他者に働きかけ、関係を築こうとするとき本能的に使っているからだ。家族や友達、知り合い、同僚たちには自然と使っているはずだ。ではどうして、この効率的なメカニズムをビジネスの場面で使うことが難しいのか。
ミリ・ロドリゲスは、その解決策として、デザイン思考と成長型マインドセット(成長する人に共通する思考の特徴)に根差したストーリーテリングの方法を提示している。
ストーリーテリングにおけるデザイン思考の最初のフェーズでは、ターゲット・オーディエンスについて、共感をもって理解を深めることが大切だ。共感こそ、オーディエンスに感じてほしい気持ちを引き起こすための大切な鍵だからだ。
ビジネスの土台となるブランドストーリーの目的は、オーディエンスになぜその企業が存在するのか、存在意義を示すためにある。 幸せ、エンパワメント、ひらめき、羞恥心、悲しみ、喪失──。このような感情はすべて誰しもが抱えるものだが、もしブランドストーリーがビジネスの機能全域にこういったテーマを戦略的に広げることができれば、オーディエンスとつながりを持ち、そのつながりを持続することが可能になる。