10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡
2021年7月、ほうじ茶きなこクリーム、煎茶練乳、木苺みるく、パイナップルの4種類を売り始めた。すると、SNSやチラシを見た人たちが食べに来るようになり、それが口コミで広まって客の数が日に日に増えていき、しまいには店先に行列ができるようになった。最終的に7月から9月までの販売期間で、ひとつ850円から900円のかき氷を、1600杯販売。さらに、嬉しい波及効果もあった。
「和菓子を食べたことがなかった人が、かき氷を食べに来きたついでに和菓子を買ってくれて。それがおいしかったからって、別の機会に買いに来てくれた人がたくさんいたんです」
実はこれまで、榊と父親の関係はあまりうまくいっていなかった。榊が次々と新しいことを始めるということは、それまでの経営の否定にもつながる。榊のアイデアは確かにインパクトがあったが、父母やスタッフがそれに振り回された感も否めない。榊は父親と日々接しながら、「心の底から喜ばれてはいない」と感じていたそうだ。
しかし、かき氷に関しては、父母や職人の手を借りず売り上げに貢献しただけでなく、新規の客の開拓にもつなげた。父親もそれを評価したのだろう。
ある日、父親は榊に「ありがとう」と伝えた。それがとにかく嬉しかった榊は、「こっちこそありがとう」と答えた。これを機に、ふたりの間のわだかまりは解けたという。
ラッキーな黒字から地道な黒字へ
同じ年の8月末には、渋谷モディでBASEが運営するポップアップスペース「SHIBUYA BASE」に1週間、出店。父母からは「絶対売れないだろう。やめときなさい」と言われたが、平均して1日10万円以上を売り上げた。この記録は、いまだに「SHIBUYA BASE」の歴代1位である。
ネットとリアル、どちらも大切にするのは、「二兎を追う者は一兎をも得ず」になりかねず、経営的にはバランスが悪いかもしれない。しかし、榊が両方の世界を全力ダッシュで行き来することで、大勢のファンを作ることにつながった。
さらに、それまで原価計算が甘かった商品づくりにも目を向け、「作れば作るほど赤字」と判明した不採算商品のうち、20%の製造を中止。残りの80%は利益が出るように値上げした。「ぜんぜん売れなくなったらどうしよう」と不安を抱えながらの決断だったが、杞憂に終わった。
「値上げ前と後で、売れた個数はぜんぜん変わりませんでした。これで、確信しました。お客さんが求めているのは安さではなくて、和菓子屋さんで買うという体験とか、職人の手作りでおいしいからとか、人に持っていくと喜ばれるという満足感なんですよね」
フルーツ大福とかき氷のヒット、不採算商品のカットと値上げという構造改革により、2021年を黒字で終えることができた。
「2020年は、テレビの効果で葛きゃんでぃが7万個売れて10年ぶりの黒字になりましたが、それはラッキーな黒字。昨年は地道にやった結果だったので、嬉しかったですね」
プライベートブランドを立ち上げた狙い
榊は昨秋、ひとつ大きな決断をした。和菓子のプライベートブランド「萌え木」を立ち上げたのだ。そこにはふたつの理由がある。
「をかのの財務をもうちょっと早く改善するために、萌え木の和菓子の製造をお願いしようというのがひとつ。もうひとつ、自分が和菓子界で注目されるようになってきたのは周りのおかげで、ほんとにラッキーだったなと思っていて、その幸運を還元するために、和菓子の間口を広げる役になろうと考えたんです」