10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡

2022年4月5日(火)12時45分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

2021年7月、ほうじ茶きなこクリーム、煎茶練乳、木苺みるく、パイナップルの4種類を売り始めた。すると、SNSやチラシを見た人たちが食べに来るようになり、それが口コミで広まって客の数が日に日に増えていき、しまいには店先に行列ができるようになった。最終的に7月から9月までの販売期間で、ひとつ850円から900円のかき氷を、1600杯販売。さらに、嬉しい波及効果もあった。

「和菓子を食べたことがなかった人が、かき氷を食べに来きたついでに和菓子を買ってくれて。それがおいしかったからって、別の機会に買いに来てくれた人がたくさんいたんです」

実はこれまで、榊と父親の関係はあまりうまくいっていなかった。榊が次々と新しいことを始めるということは、それまでの経営の否定にもつながる。榊のアイデアは確かにインパクトがあったが、父母やスタッフがそれに振り回された感も否めない。榊は父親と日々接しながら、「心の底から喜ばれてはいない」と感じていたそうだ。

しかし、かき氷に関しては、父母や職人の手を借りず売り上げに貢献しただけでなく、新規の客の開拓にもつなげた。父親もそれを評価したのだろう。

ある日、父親は榊に「ありがとう」と伝えた。それがとにかく嬉しかった榊は、「こっちこそありがとう」と答えた。これを機に、ふたりの間のわだかまりは解けたという。

ラッキーな黒字から地道な黒字へ

同じ年の8月末には、渋谷モディでBASEが運営するポップアップスペース「SHIBUYA BASE」に1週間、出店。父母からは「絶対売れないだろう。やめときなさい」と言われたが、平均して1日10万円以上を売り上げた。この記録は、いまだに「SHIBUYA BASE」の歴代1位である。

ネットとリアル、どちらも大切にするのは、「二兎を追う者は一兎をも得ず」になりかねず、経営的にはバランスが悪いかもしれない。しかし、榊が両方の世界を全力ダッシュで行き来することで、大勢のファンを作ることにつながった。

さらに、それまで原価計算が甘かった商品づくりにも目を向け、「作れば作るほど赤字」と判明した不採算商品のうち、20%の製造を中止。残りの80%は利益が出るように値上げした。「ぜんぜん売れなくなったらどうしよう」と不安を抱えながらの決断だったが、杞憂に終わった。

「値上げ前と後で、売れた個数はぜんぜん変わりませんでした。これで、確信しました。お客さんが求めているのは安さではなくて、和菓子屋さんで買うという体験とか、職人の手作りでおいしいからとか、人に持っていくと喜ばれるという満足感なんですよね」

フルーツ大福とかき氷のヒット、不採算商品のカットと値上げという構造改革により、2021年を黒字で終えることができた。

「2020年は、テレビの効果で葛きゃんでぃが7万個売れて10年ぶりの黒字になりましたが、それはラッキーな黒字。昨年は地道にやった結果だったので、嬉しかったですね」

プライベートブランドを立ち上げた狙い

榊は昨秋、ひとつ大きな決断をした。和菓子のプライベートブランド「萌え木」を立ち上げたのだ。そこにはふたつの理由がある。

「をかのの財務をもうちょっと早く改善するために、萌え木の和菓子の製造をお願いしようというのがひとつ。もうひとつ、自分が和菓子界で注目されるようになってきたのは周りのおかげで、ほんとにラッキーだったなと思っていて、その幸運を還元するために、和菓子の間口を広げる役になろうと考えたんです」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中