10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡

2022年4月5日(火)12時45分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

新ブランド「萌え木」の羊羹

新ブランド「萌え木」の第一弾となった羊羹。鮮やかな色味が特徴だ 撮影=筆者

葛きゃんでぃ、いちご大福、かき氷は、若者に好評だった。そこから和菓子に興味を持ってくれる人たちも増えた。自分が旗振り役になって、もっと和菓子に興味を持ってもらおう、和菓子を好きになってもらおうという挑戦だ。

「萌え木」の第一弾は、羊羹。小ぶりな一口サイズで、マーブル模様の羊羹を開発した。なぜ、このデザインに? と尋ねると、榊は「私だったら、これがあったら嬉しいから」とほほ笑んだ。

「私はいつも夜遅くまで仕事するから、あー疲れたー、甘いの摂取しようと思って、箱を開くじゃないですか。まず、見た目がかわいいから、テンション上がるんですよね。それで、今日はなに味にしようって選んで、串で刺してパクって食べて、あーおいしい! さあもうちょっとやるか! ってなると思うんです。スイーツはお腹を満たすために食べないし、正直言って、なくても困らない。でも、それをあえてみんなが買うのはなぜかというと、心を満たしたいからだと思うんですよ。だから、そこの部分でちゃんと満足できるような商品を出していこうと思います」

「和菓子を食べようとみんなが思える世界にしたい」

例えば、今でも特別な行事やめでたい日には「とらやの羊羹」というニーズがある。でも、榊が意識しているのはもっと日常だ。友人の家に遊びに行く時、手土産に洋菓子を選ぶ人が多い。その選択肢に、和菓子を加えてもらうこと。あるいは、「今日は疲れたから」と自分のご褒美にスイーツを買う人たちに、「今日は和菓子にしよっ」と思ってもらうこと。

「萌え木」は、そのきっかけ作りにすぎない。

「萌え木で良い反響があった商品は、レシピを公開して地域の和菓子屋さんでも作れるにようにしていきたいんです。あ、これSNSで見たことあると思ったら、若い人もその和菓子屋さんに入るじゃないですか。そのついでに大福を買って、それがおいしかったら、そのお店に通うようになるかもしれない。今日は和菓子を食べようって当たり前にみんなが思える世界にしたいですね」

川内イオ(かわうち・いお)

フリーライター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、企画、イベントコーディネートなどを行う。2006年から10年までバルセロナ在住。世界に散らばる稀人に光を当て、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。著書に『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)、『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』(文春新書)などがある。
BlogTwitter


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中