10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡
葛きゃんでぃ、いちご大福、かき氷は、若者に好評だった。そこから和菓子に興味を持ってくれる人たちも増えた。自分が旗振り役になって、もっと和菓子に興味を持ってもらおう、和菓子を好きになってもらおうという挑戦だ。
「萌え木」の第一弾は、羊羹。小ぶりな一口サイズで、マーブル模様の羊羹を開発した。なぜ、このデザインに? と尋ねると、榊は「私だったら、これがあったら嬉しいから」とほほ笑んだ。
「私はいつも夜遅くまで仕事するから、あー疲れたー、甘いの摂取しようと思って、箱を開くじゃないですか。まず、見た目がかわいいから、テンション上がるんですよね。それで、今日はなに味にしようって選んで、串で刺してパクって食べて、あーおいしい! さあもうちょっとやるか! ってなると思うんです。スイーツはお腹を満たすために食べないし、正直言って、なくても困らない。でも、それをあえてみんなが買うのはなぜかというと、心を満たしたいからだと思うんですよ。だから、そこの部分でちゃんと満足できるような商品を出していこうと思います」
「和菓子を食べようとみんなが思える世界にしたい」
例えば、今でも特別な行事やめでたい日には「とらやの羊羹」というニーズがある。でも、榊が意識しているのはもっと日常だ。友人の家に遊びに行く時、手土産に洋菓子を選ぶ人が多い。その選択肢に、和菓子を加えてもらうこと。あるいは、「今日は疲れたから」と自分のご褒美にスイーツを買う人たちに、「今日は和菓子にしよっ」と思ってもらうこと。
「萌え木」は、そのきっかけ作りにすぎない。
「萌え木で良い反響があった商品は、レシピを公開して地域の和菓子屋さんでも作れるにようにしていきたいんです。あ、これSNSで見たことあると思ったら、若い人もその和菓子屋さんに入るじゃないですか。そのついでに大福を買って、それがおいしかったら、そのお店に通うようになるかもしれない。今日は和菓子を食べようって当たり前にみんなが思える世界にしたいですね」
川内イオ(かわうち・いお)
フリーライター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、企画、イベントコーディネートなどを行う。2006年から10年までバルセロナ在住。世界に散らばる稀人に光を当て、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。著書に『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)、『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』(文春新書)などがある。
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