10年赤字の老舗和菓子屋を変えた6代目は元ギャル女将 「溶けない葛粉アイス」など映える新作で起こした奇跡

2022年4月5日(火)12時45分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

包装のデザインを一新したいちご大福

包装のデザインを一新したいちご大福 撮影=筆者

アイスだけには頼れない...次の狙いは「いちご大福」

2500件の注文をさばき終えるのに、3カ月。世の中は夏になり、葛きゃんでぃは「をかの」の稼ぎ頭になっていた。しかし、涼しくなればアイスの売り上げは落ちる。榊は「次のヒット商品を作ろう」と試行錯誤を繰り返したものの、なかなか納得できるものができない。

そうこうしているうちに秋が終わり、冬がきた。冬といえば、「をかの」の主力商品、いちご大福の季節。そこで、榊は考えた。前回は、3日間で200件の注文が入って満足してしまった。でも、振り返ってみれば、購入してくれた人たちは自分の親しい人たちやインスタのフォロワーで、コロナが最初に直撃した時期だったから、応援の意味もあっての注文だったはず。今回はちゃんと売らなきゃ。

そこで、まずはいちご大福の包装やパッケージのデザインを変えた。それから、ネットでの発信に力を入れた。音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」が日本でも話題になっていた時期で、榊は著名人が集まるルームで発言したり、自ら異業種交流の場としてルームを開きながら、「をかの」といちご大福を積極的にアピールした。

これで、ネットショップの売り上げはグッと伸びた。しかし、店の客は相変わらず、常連さんがほとんど。その様子を見て、「お店もなんとかしよう」と、手書きのビラを作り、店のスタッフとふたりでポスティングを始めた。

榊によると、チラシの効果は限定的。1000枚配っても、それでお店に足を運ぶ人は3人弱だという。しかし、その3人は貴重な存在だ。一度食べておいしいと感じれば、周りの人たちに伝えてくれる。ひとりがふたりを呼び、ふたりが4人を連れてきて、という波が起きて、春ごろから店頭での売り上げも急速に伸び始めた。

「いちご大福はもともと人気があったんですけど、ほかのフルーツ大福はぜんぜん。ぶどう大福なんて、10個出しても1個しか売れない日もあるくらいだったんです。それでロスになるのが怖かったので土日だけの販売に絞ったんですけど、1日100個も売れるようになったんです」

かき氷を売って気づいた波及効果

これで、もろ手を挙げてバンザイ! ......とはいかなかった。

「をかの」の職人は毎日さまざまな商品を作っているため、フルーツ大福だけがたくさん売れるようになると、負担が大きくなってしまう。葛きゃんでぃで現場がパンクした時、職人が辞めてしまったことを思い出した榊は、「これじゃあ、続かない。自分でできることを探そう」と方向転換を決める。

思いついたのは、かき氷。

「この2年間、コロナでお祭りが中止になって、地元で秩父の天然氷を仕入れている会社さんやお茶屋さんが『どうしよう』って悩んでいるのを聞いていました。地元から食材を仕入れたらみんなに還元できるし、自分がお客さんだったらあったら嬉しい商品だし、かき氷なら自分でぜんぶできると思ったんです」

SNS経由で受けた撮影の仕事のギャラなど自分の貯金を使って資材を購入し、本店の軒下にかき氷を食べられるスペースをDIY。同時に、かき氷のシロップ開発も始めた。最初に試作したかき氷を父親に食べてもらうと、評価は「15点」。なにが悪いの? と聞いたら「良い部分がわからない」と酷評されてしまった。

それからたくさんの人たちに試食をしてもらい、意見を聞いて、味を改善。夜になると、手書きのチラシを持ってポスティングにまわった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中