原油急落の影にUAEの「鶴の一声」 存在感誇示の影に対米不信も
アラブ首長国連邦(UAE)は今週、「鶴の一声」で原油価格を1日に13%も押し下げて市場に影響力を誇示したばかりでなく、米政府に長期的な同盟相手であるUAEの存在価値の大きさを改めて印象付けることに成功した。写真はバイデン米大統領。ワシントンで9日撮影(2022年 ロイター/Jonathan Ernst)
アラブ首長国連邦(UAE)は先週、「鶴の一声」で原油価格を1日に13%も押し下げて市場に影響力を誇示したばかりでなく、米政府に長期的な同盟相手であるUAEの存在価値の大きさを改めて印象付けることに成功した。
石油輸出国機構(OPEC)最有力加盟国のUAEとサウジアラビアは、ともに米国に幾つかの「わだかまり」を持っている。ロシアのウクライナ侵攻後、世界的な景気後退をもたらしかねない水準に達した原油の高騰を抑えるため、増産してほしいという米政府の要請をこれまで袖にしてきたのもそれが原因だ。
ところが、9日にUAEの駐米大使が増産支持を表明すると、原油は急反落して1日として約2年ぶりの下げを記録した。
その後、UAEのエネルギー相が、UAEはOPECと非加盟産油国でつくる「OPECプラス」の合意を守ると駐米大使と正反対の内容の発言をすると、原油価格は再び上昇。こうした矛盾した情報発信について、ガルフ・リサーチ・センターのサグル会長は「意図的だった」と述べ、米政府向けに「われわれはお互いを必要としている。だから懸案を解決しようではないか」というメッセージを送ったのだと解説した。
サグル氏の見立てでは、米政府はロシアのウクライナ侵攻計画にずっと前から警鐘を鳴らしていた以上、ペルシャ湾岸の産油国に対して実際に危機が起きてから働き掛けるのではなく、事前に十分な根回しをしておくべきだったという。
同氏は「湾岸諸国はロシアと多年にわたって良好な関係を築いてきたので、簡単に手のひらを返すことはできない」と話す。
米国としては、ウクライナ危機を巡って湾岸諸国に西側と同一歩調を取ってもらいたい考えがある。だが、米政府はサウジとUAEの懸念事項にこれまで十分な配慮をしてこなかったつけで、政治的な支持を得にくくなってしまった。彼らの懸念とは、宗派や地域覇権の面で対立するイランの核開発、イエメンに拠点を置く親イラン勢力からの攻撃や、米国からの武器売却にさまざまな条件が付けられていることなどだ。
募る対米不信感
サウジのムハンマド皇太子は、米情報機関の報告書で反体制記者殺害への関与が示唆されている。もちろん本人は否定しているが、バイデン米大統領からこの点を理由に事実上の国家指導者として待遇するのを拒絶され、激怒している。
ある関係者は「米国と湾岸諸国の間には、幅広い対応と解決が求められる多くの問題がある」と指摘し、まずは信頼関係の再構築が必要で、それはロシアやウクライナ危機とは関係ないと付け加えた。
この関係者も、米政府はロシアのウクライナ侵攻前に手を打つべきだったとの見方だ。「バイデン政権は諸情勢が危機へと向かっていることを知っていた。同盟国との関係をしっかり固めて、あらかじめ足並みをそろえるよう調整を図ってしかるべきで、湾岸諸国が言うなりに原油価格を制御してくれると単に期待してはならなかった」という。