最新記事

エネルギー

原油急落の影にUAEの「鶴の一声」 存在感誇示の影に対米不信も

2022年3月14日(月)10時14分

湾岸諸国の米国に対する不信感は2011年、いわゆるアラブの春に際して30年来の同盟関係にあったエジプトのムバラク政権を当時のオバマ米大統領が最後に見捨て、ムスリム同胞団の台頭を巡る湾岸諸国の不安を無視して以来、蓄積されてきた。

イスラム教スンニ派である湾岸諸国にとっては、対立するシーア派のイランによるミサイル開発に米政府が正面から対処しないまま、15年に核合意を結んだことも寝耳に水の出来事だった。

サウジが特に米国から突き放されたと感じたのは、19年にミサイルと小型無人機による攻撃を受けたのに米政府の反応がすげなかったことだ。UAEも今年1月、イエメンの親イラン勢力であるフーシ派が首都・アブダビに攻撃を仕掛けた後、米国が示した姿勢に不満を感じている。UAEはバイデン氏にフーシ派をテロリストに再指定するよう要請したものの、米政府はまだ実行していない。

電話であつれき

先の関係者や事情に詳しい別の人物によると、フーシ派がアブダビを攻撃した直後にバイデン氏から電話がなかったとして、UAEの実質的な指導者であるムハンマド皇太子が腹を立てているという。

関係者は「バイデン氏が電話してきたのは3週間後で、皇太子は電話に出なかった。同盟国がテロ攻撃を受けてから電話がくるまで3週間も待てるだろうか」と皇太子の心情を代言する。

一方、米国家安全保障会議(NSC)の報道官は9日、「電話を巡る問題は存在しない」と強調し、何かあればバイデン氏は皇太子にすぐ電話するだろうと述べた。

バイデン氏は先月、サウジのサルマン国王と電話会談し、この時に同国のムハンマド皇太子も同じ部屋にいた。複数の関係者の話では、バイデン氏が皇太子と話したがったものの、皇太子は電話会談の予定は国王だけだとの理由で断った。

ホワイトハウスとサウジ政府は、この話についてロイターからのコメント要求に回答しなかった。ホワイトハウスは7日、「現時点」でバイデン氏がムハンマド皇太子と電話で話す予定はないと説明した。

それでも湾岸諸国は、安全保障面で頼りにしている米国と、経済やエネルギーで結びついているロシアのどちらにつくかと言えば、やはり米国陣営に入る公算が大きい。

英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)のアソシエートフェロー、ニール・クイリアム氏は「最終的に米国は思い通りにできる力を持っている。しかし、サウジとUAEは彼らに向けられる米国の政策に大きな不満があるので、その抵抗力は現段階でかなり強い」と分析した。

(Samia Nakhoul 記者、Ghaida Ghantous記者、Maha El Dahan記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・ウクライナに「タンクマン」現る 生身でロシア軍の車列に立ち向かう
・ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と「新・核戦争」計画の中身


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中