野球の聖地・甲子園のカクテル光線を守れ! 最新技術での「伝統の再現」という挑戦
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高校野球ファン、そして甲子園球場を本拠地とする阪神タイガースのファンにとって、特別な存在であり続けるカクテル光線。阪神電気鉄道株式会社スポーツ・エンタテインメント事業本部の赤楚勝司氏は、その光を「数々の熱戦を支えてきた、甲子園が持つ無形の伝統資産」と表現する。
甲子園球場は2007~09年に大改修を実施し、銀傘の架け替えなどとともに照明塔の入れ替えも行っている。この当時からLED化は検討されていたが、実際には実現しなかった。その理由のひとつは、「無形の伝統」カクテル光線のLEDでの再現が困難だったことだ。
LED化によって消えゆく「無形の伝統」
一方、近年のプロスポーツのエンタメ化にともない、スタジアムはコアなスポーツファンのみならず、スポーツをあまり知らない人たちも楽しめる場であることが求められるようになった。そうしたスタジアムのエンターテインメント性の向上に加え、環境意識の高まりもあって各地のスポーツ施設にはLED照明が急速に普及していった。
結果として、「スタジアムからカクテル光線が姿を消しつつあります」と話すのは、味の素スタジムをはじめ多くのスポーツ施設のLED化を手掛け、今回のプロジェクトも担ったパナソニック エレクトリックワークス社 ライティング事業部 エンジニアリングセンターの岩崎浩暁氏だ。
「そもそもカクテル光線は、単体の光では不十分だった明るさや演色性などを、複数の種類の灯りを使って補うという発想から生まれたもの。対して現在のLED照明なら、単体でも十分な明るさや演色性が発揮されます。水銀灯や白熱灯の生産が終了する動きもあり、スポーツ施設などのLED化は今後も進んでいきます。そうしたなかで、必要性を失ったカクテル光線がどんどん姿を消しているのです」(岩崎氏)
甲子園球場のナイターをLEDで再現する
2024年に誕生100周年を迎える甲子園球場にとっても、LED化は待ったなしの状況だった。2021年12月に発表された、阪神甲子園球場での環境保全プロジェクト『KOSHIEN eco Challenge』でも、廃棄物の削減やリサイクルの推進などに加え、ナイター照明のLED化によるCO2排出量の削減が、目指すべきビジョンとして示された。
LED化と、「歴史と伝統の継承」──。甲子園球場にとって、その2つを同時に実現することが至上命題となっていた。そして、そんな甲子園がパートナーとして選んだのは、「甲子園球場のカクテル光線をLEDで再現する技術力」が評価されたパナソニックだった。
前述した通り、単色で十分な機能を発揮するLED照明がある現在においてカクテル光線は、ほとんどのスタジアムにとって必ずしも必要でないものとなっている。そのため、わざわざLEDで混合色のカクテル光線をつくるという挑戦自体が、技術的には「必要のないもの」と言えるかもしれない。
当然ながら前例はない。しかも、それは野球ファンが思い浮かべる「甲子園球場のナイターの情景」を忠実に再現する光でなければ意味がなかった。