曲者ぞろいの論客を見事にさばく「アベプラの猛獣使い」、議論を成功に導く極意とは
そのためには、いま目の前で展開されている話に一生懸命に耳を傾けることです。そうしてポジティブポイントを探して、次の話につなげていく。どうしても拾えなかったら追加質問をします。「具体的にはどうなんですか」「それはどういう意味でおっしゃっているんですか」というように深掘りする。
そのようにどんどん相手に踏み込んでいくには、心理的安全性が不可欠です。それには普段からの「根回し」が効いてきます。ファシリテーターと誰かとの、個としての信頼関係をつねにつくっていかないといけません。私は、自分から好意を示すようにしているんです。ファシリテーションするにあたって、「何派」というものがあってはいけません。賛成派と反対派がある議論のとき、どちらかに偏るとその場の心理的安全性はなくなってしまいます。だから、フェアであり、ポジティブであることが大前提になります。
対立する間柄があってもそこにパイプをつくる、お互い話せる関係をつくることも意識しています。対立すると組織のなかでも連絡や相談をしなくなってしまう。パイプができた状態で次に会うと、不思議と話し方、接し方が変わっていくんです。
集まったみなさん全員にとってプラスの関係、学びを得られる、ポジティブな場になるように心がける。そのための行動をとっていくのがファシリテーションなのです。
準備が9割!
── ご著書のなかでは「準備力」が大事であると書かれていますよね。先ほどおっしゃったポジティブで心理的安全性の高い関係づくりも準備のひとつだと思いますが、この「準備力」を強調されていることにはどのような思いがありますでしょうか。
平石:「私が責任を持っていい場にしますから」と自信をもってみなさんに伝えるためには、とにかく準備する必要があります。特に、よく知らない方がいらっしゃる場合は、「あなたのことはここまでわかっていますよ」とこちらから歩み寄る姿勢を見せないと始まりません。
ただ、いざたくさんの人がいる場に立ったときは、その場の流れに即座に反応するしかありません。だから、議論が始まったら準備したことは全部「捨てる」んです。資料を見返したりしている時間はありませんから、無意識的に「この人のことはここまで把握できている」という状態にしておかないといけない。ちょっと逆説的ですが、相手の話に集中して必死になって聴けるように、全部捨てる。そのために準備するんです。
── 準備すると往々にして人は準備通り進めたくなるものです。だからこそ「捨てる」。捨てたところでそれでも何か残る、そのくらいまで準備するということなのですね。