最新記事

コロナ禍

香港金融界が人材不足 厳格な「ゼロコロナ」対策に嫌気、欧米の駐在員数千人離脱か

2022年1月28日(金)11時45分
香港の夜景

他国から香港に駐在する専門職のうち、すでに香港を離れた、あるいは帰国を予定している人は数百人、いや恐らく数千人を数える。これによって、世界有数の金融ハブという香港の地位は脅かされている。写真は香港で2020年6月撮影(2022年 ロイター/Tyrone Siu)

タニア・シブリーさんは昨年末、金融サービス専門の弁護士という高給を得られる仕事を捨て、香港を離れてオーストラリアに帰国した。香港の厳格な新型コロナウイルス感染対策から一刻も早く逃れたかったからだ。

シブリーさんは、香港で過ごした5年間は楽しかったと話す。他国から香港に駐在する専門職のうち、すでに香港を離れた、あるいは帰国を予定している人はシブリーさんの他にも数百人、いや恐らく数千人を数える。これによって、世界有数の金融ハブという香港の地位は脅かされている。

「ホテル隔離が導入されて、人の移動がとにかく面倒になった。(オーストラリアの)自宅や両親とも近く、移動のしやすさが香港で働く大きな魅力だったのに。でも、あれほど長く子ども連れでホテルに隔離されるのは耐えられない」とシブリーさん。「誰もが規制は緩和されると思っていた。状況は改善される、そう長くは続かない、と」

香港では人口740万人に対し、新型コロナ感染者は約1万3千人にとどまっており、世界の大半の地域に比べて大幅に少ない。だが香港は中国の施政下にあり、ウイルスとの共存を前提としない中央政府の「ゼロコロナ」政策に従っている。

香港は2年間、厳しい検疫体制を実施し、昨年には世界でも最も厳格なレベルの入域ルールを導入した。市内に戻れるのは香港住民のみ、ワクチン接種状況に関わらず、ほとんどの国からの入域者に最長3週間のホテル隔離が義務付けられ、ホテル滞在費用は旅行者自身の負担となる。

しかし、「ゼロコロナ」達成のメドは立たない。23日、香港では140人の新規感染者が報告された。当局が入域規制を緩和する動きは見られない。結果として、香港離脱を考える他国からの駐在者は増加しており、ヘッドハンティング企業や業界幹部がロイターに語ったところでは、グローバル銀行、資産運用会社、企業向け法律事務所では、年明け最初の3カ月に年次賞与が支給された時点で多くのスタッフが離脱してしまう事態を迎えているという。

資本市場を専門とするインベストメントバンカーは、匿名を条件に取材に応じ、「香港では今年の夏、多くの人が音を上げて、『これではやっていけない』と心に決めることになる」と語った。「現時点では、バンカーならばシンガポールを拠点にする方がはるかに好条件だ。旅行もできるし、もし香港に来る必要があるなら、年に1度か2度、じっと隔離に耐えれば済むことだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中